でっきぶらし(News Paper)

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動物の食べ物(第一回)・序文

 動物園に来られるお客様を見ていると、動物の餌には思いの他鋭い反応を示されます。自分達がふだん食べている物とどう違うのか、大いに関心があるようです。もっとも、堆肥用のバケツに詰め込んであるワラを見て、「ずいぶん汚い餌ねavには、少々苦笑いさせられてしまいますが…。

 取り分け驚かれるのが、類人猿の餌。バラエティに富み、どれもこれもおいしそうで、時にはぜい沢だとの声も聞くことがります。果実類から乳製品まで十五種類前後、ついそんな気持ちになってしまうのでしょうか。
 でも、食べることは、動物の楽しみの大きなウェートを占めています。時に類人猿のような神経の繊細な動物となると、栄養面だけでなく、心理面からも粗略には扱えません。
 餌への関心は、やがて投餌への誘惑になるようです。「お腹をこわすから与えないで」とは言い古された文句ですが、実際、動物の体の中でお客様から与えられた餌?は、どのように変化するのでしょうか。
 恐ろしいのは虫歯。歯をみがかない動物をどれほど苦しめるのか、想像のしようもないぐらいです。次に中毒・安易な木の葉の投げ入れは、物によって下痢や軟便に止まらず、中枢神経を麻痺させる中毒を引き起こします。
 これだけは絶対に許せないと恐怖の的になるのが、ビニール。単に消化しないだけでなく、反すうする動物にとっては、胃に詰まって確実な死への歩みになるからです。
 風に舞って放飼場に入り込んだ菓子袋を、バーバリシープがムシャムシャ。歯ざわりがいいから食べるのでしょうが、何ともやりきれない光景です。どうぞ、動物に物を与えるのはやめて下さい。

★調理室を覗く

 調理室の担当者が、その日の朝に業者が持ってきた野菜や果物を主体に、各獣舎ごとの仕分けを終えた頃になると、午前中の仕事にひと区切りをつけた各獣舎の担当者が、午後に与える餌を作る為に戻ってきます。冷蔵庫や冷凍庫を開け閉めする音、野菜や果物を切る包丁の音、あるいはカッターで切る音、餌袋をビリビリ引き裂く音、一時調理室はかしましく賑わいます。
 ここ日本平動物園において飼育されている動物は、ざっと二百十二種。八百九十点。肉を食べる動物、魚を食べる動物、草や木の葉を食べる動物、果実類を食べる動物、生き餌しか受け付けない動物等々、内分けは実に様々です。
 それらの動物の飼料の大半は、この調理室及びその隣の飼育倉庫に集積されています。まず飼料倉庫を覗くと、草食獣用、クマ用、ウサギ用の各ペレット(それぞれの動物向きに成分を考え、それをねり固めたもの)を初め、養鶏配合、小鳥用配合、小麦、青米、フスマ(小麦の皮)、鉱塩(ミネラルを多分に含んでいる)、等々がぎっしりと保管されています。
 一方、調理室の冷凍庫を開けると、サバ、アジ、馬肉、鶏頭等がきちんと並べられており、冷蔵庫には予備の野菜や果物、鶏卵等の他、解凍庫として前述したものが少しずつ入っています。
 これらが一日量、各動物の健康状態を見計らいながら消化されてゆくのです。太めだと減らされ、成長期だと注文量以上に消費されることになります。そんな状態を考慮しながら、飼料の発注をしなければならないのですから、担当者も楽ではありません。
 それでは各獣舎に運ばれた餌が、どのように与えられ、どのように食べているのか、説明して参りましょう。

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