でっきぶらし(News Paper)

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224号(2015年06月)5ページ

病院だより 「ヤッコちゃんのできもの」

 日本平動物園内にあるふれあい動物園の一角にインコ舎がありますが、その中にとても愛想のよいオオバタンがいます。名前をヤッコと言います。人がとても好きで、「オハヨー」、「ヤッコちゃん」、「コンニチワー」などと大きな声で喋って愛嬌を振りまいている、ふれあい動物園の人気者です。ヤッコは1976年に来園したオスです。正確な年齢は不明でメスのマツコと同居しており、マツコはヤッコとは違い、どちらかと言うと人見知りの性格です。
 ある日、インコ舎の担当者がオオバタンの部屋に血痕が数か所落ちていたと報告して来ました。2羽の体を見ても、外見上怪我はしていないようです。爪をどこかにひっかけてしまうこともあるので、足元も注意深く見ましたが、特に異常はありませんでした。どちらの個体から出血があるのかわからないことと、出血の量がそれほどでもなかったことから、2羽を捕まえて身体検査をして鳥にストレスをかけるよりも、様子を見ることにしました。
 その後、どうも出血は便と一緒に出ていることが多く、出血と一緒に出ている便が少し臭うとのことなので、便の検査をしてみましたが異常は見られませんでした。出血の色は鮮やかな赤色でした。便の出口から遠い場所から血が出ているとしたら、通常黒く変色するので、鮮やかな赤い血が出ているということは、出口に近い辺りに出血があると考えられます。鳥の場合は便が出るところと尿が出るところが一緒になっていて、総排泄腔と言いますが、ヤッコかマツコのどちらかの総排泄腔付近から出血していて、人で言う「切れ痔」の様な状態なのかなと考えました。
 そして、園内巡回中にヤッコが「オハヨー、オハヨー、ヤッコちゃん、オハヨー」と愛嬌をふりまき始めたので、「ヤッコちゃん、オハヨー」と呼ぶと、止まり木から網を伝って、ちょうど目の前に下りてきました。首を振りながら嬉しそうにヤッコはしゃべり続けます。そこで、「ヤッコちゃん、オハヨー」と声をかけながら、そーっと綿棒を総排泄腔に入れてみました。すると綿棒には血の様なものがついてきました。出血していたのはヤッコだとようやく判明しました。そこで、可哀想だけどヤッコを捕まえて調べることにしました。ヤッコを捕まえて、インコ舎の裏側に連れて行き、体を押えるとこの世の物とは思えないような叫び声で鳴き続けます。総排泄腔の辺りを調べてみると、その内側に直径1cm弱の赤い「できもの」が見つかりました。ここから出血していたようです。何かの拍子でこの「できもの」から大きな出血があることも考えられるので、動物病院で、この「できもの」を切ることにしました。
 泣き叫ぶヤッコを袋に入れて、動物病院に運んで、麻酔ガスを吸ってもらいました。最初は泣き叫んでいましたが、徐々に麻酔が効いて大人しくなり、寝息をたてはじめ、充分に麻酔が効いたところで、ピンセットで「できもの」を引っ張りながら切り取りました。傷口は消毒して、抗生物質の薬をつけました。その後は入院などもせずに、インコ舎に戻しました。痛い思いをしたと思いますが、ヤッコは今も元気に皆に愛嬌を振りまいています。
 ヤッコとマツコのペアは、決して仲は悪くないのですが、ちょっと距離があるように感じます。ヤッコももう少し、マツコに対して愛嬌を振りまいてくれたらと思っています。

動物病院係 金澤 裕司

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