でっきぶらし(News Paper)

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224号(2015年06月)4ページ

春・悲喜こもごも

 桜の季節もあっという間に過ぎ去り、鯉のぼりが元気に泳ぎ回る新緑の季節へと移り変わってきました。春は出会いと別れの季節といいますが、ここ動物園でもそんなシチュエーションが数年ぶりに見られました。まあ人事異動で職場内の人が入れ替わるという事は少なからずあったのですが、この春動物園ではそれぞれの飼育係が受け持っている担当動物が変わるという、我々飼育係にとっては一大イベント!?が数年ぶりに行われたのであります。飼育係は基本的には幾つかの動物種を担当動物として受け持ち飼育している訳ですが、同じ人がずっとその動物を飼育し続けるという訳ではなく、これまで基本的には3年に1回くらいのペースで担当動物を変えていくという事をしてきました。やはり飼育係といえど自分が好きな動物、嫌いとまではいかなくてもちょっと敬遠したい動物(ヘビなんかはその傾向強し)があり、また実のところこれが一番気にかかる所なんですが、その動物の部屋を掃除するのにいったいどのくらいの時間がかかるのか、これが現実的には担当替えを担当替えたらしめている!?大もとであります。我々飼育係は自称・獣舎掃除のプロフェッショナルですので、いかに効率よく獣舎をきれいに仕上げるか日々研究努力しています。一日の内の決められた時間内で効率良く掃除が出来れば、残りの時間を有意義にうまく他へ回す事が出来るのです。決して「手抜き」と「効率良く」は同じたぐいのものではありません(笑)。更にもう一つやっかいな条件として・・・動物がスムースに獣舎の出入りをしてくれない(哀)という動物側の問題があります。これはもうどうしようもないといった感じでありまして・・・。私も早いもので今年で飼育係になって25年がたちました。その間に出入りで四苦八苦させられる困った子たちをこれまで何頭か見てきました。トラ・ハイエナ・オオカミ・ユキヒョウ・ゴリラ・オランウータンなどなど・・・。挙げれば過去けっこう多くの動物達が我々飼育係を困らせてきた訳ですが。
 そんな中この度の担当替えにて久しぶり(20年ぶり位)に、また中型サル舎を私は受け持つ事となりました。中型サル舎は園に入ってすぐの所で、ニホンザルやシシオザルといった中型サイズの猿を飼育している獣舎です。以前担当していたとはいえ、1~2頭を除いてほとんど全てと言っていい程、当時実際に世話をしていた子達ではありません。どんな具合かな~と昔の感覚を思い出しつつ、この4月から世話をしていたのですが、あろう事かここに居ましたしっかりと・・・(泣)。マンドリル(♀)のマロンちゃん、あなたデス、あなた!! 扉を開けてもウンともスン。いっこうに寝室に入ってくれません。前担当者に寝室に入れるコツを聞くと、柵ごしにお尻を触ってあげて、本人が納得するまで長い間、という、とにかくそういう事らしいのです。そこでこちらも檻の前にしゃがみ込み、こちらに向けるお尻を「ハイハイ、ヨシヨシ、良い子良い子」などと甘い言葉でなだめつつ、ハイもうこれでよし入ろうと心の底から説得するもむなし。またその内に高い方へ登っていってしまったり・・・そんなこんなの心が折れる日々を数日間繰り返し、それまでは何とかダマしダマし寝室へ入れていたのですが、その日は一向に中に入ってくれる気配なし。寝室へつながる通路から見える手前の所に大好物のバナナを置き、こちらがじっと我慢の子。静かに様子を伺っているとマロンちゃん、周囲をキョロキョロそーっとホフク前進のごとく通路内に入っていき、よしやった入ったァと急いで扉を閉めようとするも早いのなんの。バナナを握りしめ一目散で外の放飼場へ飛び出し木の上に登り、あー危なかったやれやれと、成し遂げた感一杯の表情で美味しそうにバナナを頬張ってくれました・・・。ここでもうこちらの堪忍袋が完全に切れ、やっきりしたのでついにその日は一晩中外の放飼場へ出しっぱなし、閉めだしてやる事としました。
 さてその後マロンちゃんがどうなってしまったかというと・・・余程一人ぼっちで明かした外での一夜が堪えたのかアラ不思議。その日からとりあえず現在までスムースとまではいかなくともお尻へのチョイタッチ程度で渋々?中に入ってくれています。なんだやれば出来るじゃないかマロンちゃん。頼むよ、これからもよろしくネ!!

飼育係 松永 亨

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