でっきぶらし(News Paper)

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189号(2009年08月)5ページ

動物びょういんだより   妖精か妖怪か

動物病院には病気や怪我で入院中の動物達以外にも、高齢のため展示を引退してゆったりと老後を送る動物達も生活しています。動物達も高齢になると、目が白内障で濁り見えなくなったり、耳が遠くなったり、足腰が弱くなったりといった様子が見えてきます。

この春に大往生したオオガラゴのドビー(第187号のザブトン同様、入院してからついた愛称)は、両眼は真っ白、耳も遠く、一日のほとんどを寝て過ごしてはいましたが、朝一番にもらえるパンガユの時間にはノソノソと起き出し、ケージの網扉によじのぼり飼育員に催促をするのが日課のおじいさんでした。

朝のおねだりがなくなり、だんだん食欲が落ちて・・その様子を観察していると、「ドビーは二日に一回目を覚ます」ことに担当飼育員は気付きました。一日が48時間になっているようです。確か、人間の長生きのおばあさんもこの周期で生活している方がいるとテレビで見たことがあります。

体内時計もゆっくりになってくるのですね。掃除のためにケージに手を入れる時などは、「ドビー、お掃除するよー、タオルちょうだーい。」と大きな声で呼びかけるとタオルの上から移動してくれたりもしました。

だんだん、声をかけても気がつかず突然驚いたり、日中は寝ている様子しか観察できないようになり、夜中に目を覚まし、ケージの網扉によじ登っている時力尽きて亡くなりました。
 
園内の動物達が死亡すると必ず解剖をします。死因を探り、今後の飼育や治療に役立てていくためでもあります。こうした高齢の動物達を解剖していていつも思うことは、「本当に良く頑張ったな」ということです。

どの臓器もボロボロ。ほとんど機能ができていなかったであろう状態が伺えます。最期の最期まで生きる、動物達の生命力は本当にものすごいと毎回感じます。

ドビーと同様、長年病院で暮らす高齢動物がもう1頭います。ハクビシンのハッちゃんです。なんと、24歳のおばあさん。10年程が寿命と言われているのでものすごい長寿です。

春頃から衰えが見え始め、3kg以上あった体重がどんどん減っていきました。餌をミンチ状に細かくしたり、食欲のない日には手搾りリンゴジュースを注射器で飲ませ、生え替わらず毛玉になった毛をブラッシングし、日光浴をさせ、病院担当飼育員は、「長い間展示で頑張ってきた分、最期まで介護するからね。」とハッちゃんに声をかけていました。

だんだん動きが悪くなり、ある日の治療中、体を押さえていた飼育員が、「足の関節が動かない!」手も足もほとんどの関節が固まっていました。それでも、餌を食べるために動かぬ手足を引きずりながら好きな馬肉とバナナを食べていました。

「ハッちゃん、おはよう。」毎朝声をかけると、顔を起こし反応します。ある朝、「ハッちゃん、おーいハッちゃん!」呼んでも何の反応もありません。すぐに治療室へ運び、蘇生処置をし、酸素を吸わせ、しばらくすると顔をあげました。

夕方には、なんと!リンゴジュースをゴクゴク飲み、立ち上がって餌をねだりました。「元気になったね。」「すごい復活ぶりだね。」
 
数日後、夕方園内の見回り中に無線で呼び出されました。「ハッちゃんがダメかもしれない・・」走って病院へ戻ると、ケロッとした顔のハッちゃんがリンゴジュースを飲ませてもらおうとしているところでした。

「あ〜っ、すみません。思いきりたたいたら意識が戻りました!」眠りが深く深くなってきているのでしょう。そのまま永遠の眠りについてもおかしくはない状態にあるのは確かです。
 
また数日後の朝、声をかけても反応がありません。体を触ると冷たいです。前回と同じ処置をすると、昼頃には顔をあげ、体温も回復してきました。午後には、リンゴジュースとすりつぶしたバナナを飼育員にスプーンで食べさせてもらい、今回もなんとか危機は脱した様子でした。「3回も生き返ったね。」「ほんとにすごいね。」

しかし、翌日からは本当に寝たきり。顔も上げられない状態です。毎日、点滴などをし、流動食を食べさせ、ほとんど反応のないハッちゃんはそれでもなんとか少し、大好きなリンゴジュースとすりつぶしバナナを口にしてくれていました。

昨日この原稿を書き始め、ドビーが亡くなった時、担当飼育員が2頭の高齢ぶりに「ドビーとハッちゃんは妖精だね。」と言って笑っていたのを思い出しました。「確かになぁ。でもハッちゃんは日本にも棲む動物だから妖怪かな。頑張る妖怪だなぁ。」と考えていました。
 
今朝、ハッちゃんが亡くなっていました。「よく頑張ったね。」みんなのかける言葉はこれに尽きます。動物病院は動物達の出入りの激しい場所ですが、こうして長く住人として過ごした動物達のいた場所はいなくなって空いてしまうと寂しいです。

長くお客さん達に親しまれ引退した動物達は、こうして静かにですが最期まで飼育員達に見守られそっと姿を消していきます。
 
園内には高齢でも元気な動物達がたくさんいます。この暑い夏をみんなが無事に乗り越えてくれるように、私たちも頑張ります。
(長倉 綾子)

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