でっきぶらし(News Paper)

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213号(2013年08月)6ページ

スポットガイドだよりNo2

《6月16日 アムールトラ、ライオン》

 6月16日(日)、13:30より、アムールトラとライオンのスポットガイドを行いました。
ネコ科の中でも人気の高いこの2種は、人によっては好き嫌い(と言うより支持?)が二分する事がある程の動物です。何と表現したら良いか悩みますが、強いて言うならばある人は熱狂的なトラファンであってもライオンにはまったく興味がなかったり、また、その逆でライオンがやたらに好きでもトラはあんまり好きじゃないと公言する人も居たり…まあ、人それぞれ好きずきがあるので私個人は特に意見は無いのですが…実を言えば私はアムールトラとライオンの担当者なので、そうした人気の二分?を耳にすると、正直複雑な気持ちになるのは確かです。
 さて、今回のスポットガイドはアムールトラとライオンの比較や、野生の状態・動物園での暮らしぶりを御説明しました。更に、アムールトラは近年、単独のスポットガイドを行った事があるので内容的には『薄く』、ライオンは最近ガイドを行っていなかったのでやや『濃く』説明や解説を行いました。
 ……『行いました』が…これはちょっとリスキーな試みでもありました。
何故なら、ライオンの解説を『濃く』する場合、皆さんにかなり強烈なカルチャーショックを与える可能性があったからです。それは何か?と言えば……はっきり申し上げましょう。
 ライオン…この動物は本当は…おそらく殆どの人々がイメージしている様な動物では『無い』からです。ライオンほど、一般の方々が持っていらっしゃるイメージと現実の姿(実態)にギャップがある生き物は、多分いません。そのイメージギャップは恐ろしいくらいで、人によってはライオンの実態を話すと、その方のアイデンティティがぐらぐら揺れ出してしまう様子で……ですから、ライオンに過剰な思い入れがある方は、すみません、ここから先はお読みにならない方が良いと思います。
 …沢山の皆さんがお持ちのライオン像は…『誇り高く賢く、格好良く威厳があり、全ての動物の上に王として君臨し支配し、ライオンが現れると他の動物達はひれ伏す』。まあ程度の差はあれ、こんなイメージだと思いますが、このイメージは…ストレートの言ってしまえば人間の幻想に過ぎません。多分、オスライオンの外見から連想し、人間が勝手に作り上げた、まるっきりの『おとぎ話』『フィクション』『作り話』『夢物語』です。
 実際のライオンは、
①、一日24時間中20時間は寝ているか休憩している。
②、オトナのオスは外部から群れに迎え入れられた存在であり、狩りをせず、メスが獲って来た餌を食べ、しかも群れのボスではなく、繁殖行動をしたりマーキングしたり大きな声で吠えたりして自己主張をするのが主な役割(ライオンの群れの現実的な支配者はメス達です。メス達は完全な女系社会を形成しており、おおむね各個体同士は血縁関係にあります。これはどういう事か言えば、群れの中に居るオトナのオスは、新しい血統を維持する為に事実上メス達に繁殖用に集団の中に置いてもらっている様な存在と言えるでしょう。(もちろん時々、外敵を追っ払ったりはしますが。つまりオスは究極のお婿さんなのです)。
③、ライオンは雌雄の区別無く、だいたい30mくらいしか全力疾走ができない(心肺機能が保たないからだと言われています)。
④、従って狩りが下手(狩りの成功率はメスが集団で行って、平均しておよそ1/5程度だと言われています。%だと20%くらいですね)。
⑤、ライオンは垂直運動が苦手(つまり立ち木に登れない・急斜面の崖等にも登れない)。
⑥、②の事例に繋がる事実ですが、群れの中に迎え入れられているオトナのオスは、繁殖用に群れに置いてもらっている様なものなので、病気になったり怪我をしたり老齢になったりして弱った場合また決定的なのは他所から新たにやってきた別のオスライオンと闘って敗れた場合、群れから追い出されます。
⑦、私達飼育員の様に彼らといつも接している人間なら実感できる事ですが、ライオンは付き合って(関わって)みると殆どの個体があまり頭が良くない事に気付きます。頭が悪いとは言いませんが、決して知能が高いとは言えません(特にオスは)。今回、同時にガイドを行ったアムールトラが、非常に高度な知能や抜群の認識力を持っているのを目の当たりにしているので余計にそう感じられます。
……この、ライオンの現実ライオンの実態と、一般的に信じられているライオン像との落差!凄まじいばかりのイメージギャップは、一種のライオン信仰?をそのまま信じている人達に多大なカルチャーショックを与える様です。そして、実際、このライオン信仰を疑いもしないで事実だと信じている方々の何と多い事でしょう!?
今回のスポットガイドは、こうしたライオンの実態を、慎重に、観客の皆さんの反応に注意しながら御説明しました(上手くいったかなぁ?)。

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