でっきぶらし(News Paper)

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ただいま飼育係1年生

(清水定夫)
 何もわからないまま、もう3ヶ月以上も経ってしまった。最初は、先輩の飼育係について実習をすることからのはじまり。動物病院から1班、2班と順々に、ひとりの先輩飼育係に3日ずつついて指導を受けた。
 まずは、動物病院での話から。そこには、タヌキの子供がたくさんいた。その子ダヌキにミルクを与えるのを見ていて、これなら私にもできそうに思えた。が、やってみると全く飲んでくれない。何度も何度もやった末に少しずつなんとか飲んでくれるようになり、家に持ち帰ったりするうち、ようやくまともに飲んでくれるようになった。
 さて、タヌキの話はそれぐらいにして、実習3日目の事。ハクビシンのケージの底板を洗って、替わりの底板を入れてやるのだが、ついついその底板を入れずに表に出して、次のを荒っていたところ、先輩の飼育係に『ハクビシンが1頭いない。逃げたのではないか!』と言われた。そんな事はないと思いながら、表のケージを見ると・・・。ガ―ンと殴られたようなショックを受けた。戸が閉まっているのに、どうして逃げたのか全く解せなかった。ハクビシンもタヌキに似ているから私を化かしているのかと思えた。
 周囲の様子を伺い茶畑の方を見ると、ハクビシンが一生懸命に金網をよじのぼっている。私は急いで駆けて行き捕まえようとしたが、逃げ足の速い事。とうとう朝のひと騒動となってしまった。先輩飼育係の応援を乞い、一大捕獲合戦。やっとのことで川原に追いつめて捕らえたものの、私にはどのように逃げたのかさっぱり見当がつかなかった。
 飼育課長に『すみません。』と謝り、『何処から逃げたのですか。』と聞くと、ケージを指し『底に板が入っていないぞ!』と言われた。『底板がなくても網の目は細かいし、あの体でどうして』と聞くと、『頭が出れば逃げてしまうよ!』と教えられた。これが3日目における初の失敗。
 次の日、同じように仕事をしていたところ、今度は食べ物入れのバットを出そうとした時、ハクビシンの1頭が、『ガオー』と唸り、靴に咬みついて来た。びっくりして足を引こうとしても、喰らいついたまま離そうとせず、しかもケージから頭まで出てきてしまった。『ヤヤッ!』また逃がしてしまうのではないかと、あわ喰いハラハラ。おとなしいと思った動物も、私がやるとどうして向かって来るのかと、いささか肝を冷やした。が、こんなことで弱気を出すまいと、心に強く刻み込んだ。本当に動物はあなどれない。
 それと同じ動物病院内にいたチンパンジーの子“リッキー君”。タヌキの子の面倒を見る都合上、毎日顔を合わせざるを得なかったのだが、何とも生意気で私を馬鹿にしてからかいに来た。たまにちょっかいを出すと、意外に力があり、何かしようにも恐くなってしまった。咬みつきに来ても、先輩の手前どうしてもされるがままになってしまった。
 『厳しく叱れ!仕返ししないとなめられるぞ。』と言われても、どうしてもそこまではやれ得なかった。結局、腕を強く咬まれて、ひいひい痛い目に。そんなこんなの動物病院の実習から、いよいよ各動物舎への実習が1班から始まった。
 まずは、ゾウとキリンから。もう先輩たちの動物の扱いには、びっくり感心させられることばかりだった。掃除道具の使い方ひとつにしても全く違う。デッキブラシもホウキもホースも、実に手際よく上手なのだ。私がやってみると、どれもさっぱり要領を得なかった。
 なかでも印象深いのは類人猿だ。ゴリラ舎の中に初めて入った時、メスのトトはやさしく迎えてくれたものの、オスのゴロンは私の顔をみるなり、いきなり脅しにかかって来た。近くで見るゴリラは想像以上に大きく、腕や足も太い。それには、いささか度肝を抜かれる思いがした。そんなゴロンも、担当者にかかると子猫のようにおとなしく、素直に従順に言うことを聞いていた。それを見てただ感激するばかりだった。
 チンパンジーはチンパンジーで、私が行くといきなり水を口に含んで『ピュー』とかけてきた。そして『ホォーホォー』と唸り声をあげて威嚇。もう開き直って、オランウータンについた時等は、何でもやってやろうと決心した。が、子供のジュンとオリ越しに遊んでいて、小さくとも力がものすごいのには、またまた驚かされた。
 どじ談としては、子供動物園での事。キバタンのケイコを世話していた時、まだ新米の私にでも呼べばけっこう返事し、かわいらしくなって、外にいる時も『ケイコ』と呼び金網越しに触ろうとすると、指をガブリと咬まれてしまった。ジーンとしびれて血がポタリポタリ。ただキバタンにかまれた事だけを先輩の飼育係に話すと、『お前、金網越しに触ったなあ!』と一括されてしまった。どんな動物もあなどれない。気を許せないと改めて思い知らされた。
 9月より、いよいよ担当も決まり、1年生としての本当のスタート。動物園に来て、ようやく1日、1日が楽しくなりかけている。これからも、先輩たちにいろいろ教わらなくてはならない事がいっぱいあるが、今のファイト溢れる気持ちを忘れずに頑張って行きたい。

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