でっきぶらし(News Paper)

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バイソン舎前より

 いきなりで申し訳ありませんが・・・
 質問です。 
 臭い、でかい、暑苦しい。
 こうした表現を、ほぼワンセットで表現される動物が、日本平動物園にいます。 
 さて、何でしょう?
 答えは、アメリカバイソン。大草原だの荒野だのを、どどどど、と走り回っていた、あの野牛です。一時は滅茶苦茶な乱獲で絶滅になりそうになりましたが、一部の良心的な人々の努力と、本来とても繁殖力が強い動物なので、それだけは免れました。しかし・・・
 臭い、でかい、暑苦しい。
 それは、本当です。担当の私でさえそう思うのだから、間違いありません。来園者がそう感じるのも、もっともだと思います。
 事実です。認めます。大正解!
 が、だからといって、お客さん、素通りはないでしょう?どんなに牛糞臭くても、圧迫感を与える程でかくても、夏場は見ているだけでじと〜っと汗ばんでくるくらい厚いズタボロの毛におおわれていようとも、担当者からすれば、我が子も同然(笑)、あなた、ろくすっぽ見られずにスタスタ素通りされてしまえば『よおおし、意地でも足止めさせてやろうじゃないか』って気になるのは、ま、当然ですわな。
 そう思ったその日から、私の怒涛のような“バイソン舎前観客足止め作戦”、別名、“客引き大作戦”が開始されたのです。
 で、考えました。一番てっとり早いのは、鮮やかな色彩の何かを作って関心を引くことです。
 けれども、バイソン舎自体がいわゆる渋味の雰囲気をイメージして作っているので、この色は使えません。そのため、派手でなくても目立つ相対色(黒地に白とか茶に白とか)で、バイソンの説明板を作り、それを基本にしてネイティブアメリカン(アメリカ先住民のこと。インディアンは蔑称なので公では使用されません。)風の感じを出すために、切り出したままの自然木を組み、その要所に鳥の羽根をデコレーションしてみました。つまり、皮むきしていない自然木の太枝を様々な形にディスプレイし、それのポイントに羽根を飾り、それらの中心に説明板を取り付けたのです。
 これは、うまくいきました。あくまでも感覚的にですが、今まで、10人中7人は素通りしていた来園者を、約半数、立ち止まらせることが可能になったからです。けれども、これでは足りません。10人中10人とは言いませんが、できれば全体の8割以上は立ち止まらせたい・・・そう思いました。
 実は、私はこの仕事に就く前、長いあいだ主に店頭販売の職業に就いていたので、一種の展示意識が発達しており、来園者を“お客さん”と認識する傾向が強いので、余計にその気持ちがあったと思います。
 で、次に考えたのが、“音”でした。
 色の次には音。単純な話ですが、実はこうした単純さが“お客さん”=来る人の関心をひく事を経験的に知っていましたから、すぐに作業に取りかかり、すでに使われなくなって久しかったハンドベルを探し出して来て音源にし、そのベルに風で揺れた説明板の一枚から垂れた金属輪が当って音が鳴るようにしました。
 やや調整に手間取りましたが、これでキンコンカンコン鳴る“音”を“置く”ことができたのです。もちろん、動物に対する影響も考えいろいろと試験しましたし、夜間は音が鳴らないようにしました。
 さて、それでは足止め効果はどうなったでしょう?
 結果・・・ほぼ思い通りでした。
 説明板や、その他のディスプレイを見ただけでは通り過ぎてしまいそうな来園者も、音を聞いて立ち止まったり、方向転換したり、あるいはUターンすらして来たのです。
 ある程度この客引きフォーメーションを仕上げた後、来園者のそんな反応をじっと見て、私がニンマリしたのは言うまでもありません。
 今ではだいたい10人中7、8人は立ち止まり、しっかりバイソンを見て行ってくれます。
 けれどもこの結果は結果と考え、私は次の計画を考えています。
 臭い、でかい、暑苦しい。
 そんな動物だからこそ、じっくり見て行ってもらうために・・・。
(長谷川裕)

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