でっきぶらし(News Paper)

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獣医さん大忙し【ライオンの大往生】

 哺乳類の二十年、ヒトならやっと成人ですが、他はどうでしょう。イヌやネコならとっくに寿命は尽きていますし、比較的寿命の長い類人猿にしても、そろそろ老いに入りかかる年令です。百獣の王ライオンだってそろそろ寿命と言える年令です。
 開園当初、ライオンを求めても求めてもやってくるのは老ライオンでした。交尾をしてもちっとも繁殖に結びつかず、次につけた条件は「まだ幼い個体が欲しい」でした。
 そして、やっとやってきたまだ幼いライオンに「レオ」(オス)と「トーイ」(メス)の名がつけられました。二年後には待望の出産が見られ、親子六頭での仲睦まじい光景も描いてくれました。
 が、ライオンは動物園では飽和状態、すぐに生ませる訳にはいかなくなりました。繁殖の夢も束の間で、二頭だけの日々が過ぎて二十年。
 いつしか、私達の耳に入ってきたのは、「最近「レオ」が元気がない、「トーイ」の目が緑っぽくなってよく見えていないようだ」との、なんだか物悲しくなる情報です。そうこうしている内に「レオ」はふらふら、もう放飼場にも出せなくなってしまいました。
 獣医が、麻酔銃で眠らせて血液を採取して調べた結果は、極度の貧血。ならばと与えたレバーも一日、二日で食べなくなってしまったのです。
こうなると坂道をごろごろです。死んだとの報を耳にしたのは、それから間もない頃でした。
 開腹して内臓を調べてみれば、一つひとつが弱り衰えていたそうです。レバーを食べて回復する体力なんて、もう持ち合わせてはいなかったのです。
 二十年生かせられた、彼の持っている寿命をほぼ燃焼させられた、それだけが救いです。後は、冥福を祈るのみです。
 獣医と動物の関わり、あまりうまく表現できませんでしたが、今回はまず第一歩です。次回は、もう少しうまく表現できるでしょう。
(松下憲行)

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