でっきぶらし(News Paper)

« 89号の4ページへ89号の6ページへ »

カメラが追う悲喜こもごも【アメリカバイソンのパイプカット】

 かってアメリカ大陸の草原の色を変える程いたと言われるアメリカバイソン。それがあっと言う間に五百頭を割るぐらいにまで激減し、慌てて保護されてなんとか持ち直しているのが現在の姿です。
 二十三年前、ネブラスカ州オハマ市より開園のお祝いとして寄贈された時は、上野動物園以外の新しい血として、それはそれは大歓迎を受けました。
 母親のシズカ、娘のメリーは期待を裏切ることなく次から次へと出産し、日本のあちこちの動物園へ貰われてゆきました。
 しかし、引く手あまたも時の流れは無情、いつしか飽和状態に。もともと繁殖力が旺盛な生き物です。ちょっと保護するだけで爆発的に増える力を秘めていたのです。
 二十年前では貴重であっても、ほうぼうの動物園で飼育されるようになり、かつ旺盛な繁殖力です。ただどころか、ノシをつけたって要らないと言われるような状態になってしまったのです。
 肉食獣に続いて、アメリカバイソンまで生ませる訳にはゆかなくなりました。出た結論は、今いる若オスをパイプカットする、でした。
 一度ならず二度まで麻酔失敗、獣医の心の片隅にやはりためらいがあったのでしょうか。日延べ日延べの三度目、やっと眠らせることができました。
 この記録、撮るべきかどうか、私自身かなり迷いました。あまりにも無情、非情な光景です。いくら記録マンを自認していても、ためらいは生じました。
 一度目、二度目の時は時間に余裕がなく黙殺していたのですが、三度目に限ってそんな時間のゆとりができました。
 無用なら没にすればいいのです。そう心に決めて、ハロセンをかがされて眠っているバイソンにフラッシュを飛ばせました。
 かつて担当者が夢見たバイソン牧場も、愛らしい母子の光景も、はかなく消えてゆきます。でも、それだけ増えたと言うことです。それだけが救いです。

« 89号の4ページへ89号の6ページへ »