でっきぶらし(News Paper)

« 50号の8ページへ50号の10ページへ »

飼育係体験記 類人猿・サル舎編?T

県立城北高校生物部動物園班少女B
二日目は希望で、類人猿、サル舎を見学させていただくことになった。希望した理由は、というと本当に単純なことで、私と同じ名前だということから、オランウータンのジュンちゃんに異様な親しみを感じてしまい、ぜひジュンくんに近付きたいと思ったからであった。
サル舎にいくと、サルたちはもうすでにお客さん側のおりに出されていた。担当の松下さんが、適当な大きさに切ったリンゴ、バナナ、オレンジなどをおりに投げ入れると、サルたちは、よろこんで拾って食べた。リンゴのかけらが、おりの上につっかかると器用に手でとって口に持っていく。さすが!これが、サルたちの朝食なのだそうだ。ここには向かって左からニシクロコロブス、シロガオオマキザル、ダイアナモンキー、ブラザグェノン、ニホンザルと五種類のサルたちが住んでいる。この名前がなかなかややこしくて最初はよむのに苦労してしまった。
それから、松下さんは中に入って、オランウータンの子をしぼったタオルでふく。あー、これが、あのジュンくんとベリーちゃんなんだ。おり越しではない、そのままのジュンくんたちを目の前にしたうれしさで、しばらくボーッと見入っていた。
次に、体温をはかる。人間と同じように脇の下に体温計を入れ、二頭とも松下さんのひざの上でじっとしていた。茶色い手が松下さんの首にしっかり巻きついて、その姿になんともいえないほのぼのとしたものを感じた。いいなあ。体温をはかるのは、毎日の健康チェックで朝夕2回はかって記録するのだそうだ。そうすることによって、それぞれの健康状態だけでなく、心理状態もわかるという。
ベリーちゃんは、昭和60年6月28日に横浜の動物園からやってきた。人工哺育のため、最初は自分をオランウータンとは思っていなく、人間だと思っていたのだそうだ。なんていじらしい。でも、かわいそうなことだ。そのため、ジュンくんとお見合いさせたときは、とても怖がったのだそうだ。その逆に、ジュンくんの方は落ちついていて、ベリーちゃんと離すと寂しがったという。そうした精神的な動揺があると、体温が微妙に変化するのだそうだ。体温なんて、風邪をひいたときくらいしかはかったことがない私は体温計が動物達の心を知る大切なものだということを初めて知った。
お見合いをした後は、二頭一緒にいる時間をだんだん長くしていき、ついに8月2日に同居。そして今日に至っているのである。そうか、いきなり一緒にさせるのではなく、序々に慣らしていくんだな。
体温をはかり終わると、ジュンとベリーを外のおりへ出した。
次は早速サル舎のそうじ。松下さんに”時間はかかってもいいからやってごらん”と言われ、昨日の猛獣舎でやらせていただいたことを発揮して、うんときれいにしようと意気込んだ。ところが・・・!えさのカスがあまりにも多く、ホースで集める時は排水口がつまり、水はたまる一方。集めるどころか、えさはプカプカと浮いて、よけい散らかるばかり・・・ええい、しかたがないっと、ホウキでたまったえさをよけながら、水を抜きにかかる。
結局、えさやフンは散らばったまま、ホウキで苦心して掃くはめになってしまった。この要領の悪さと、不器用さに自分でも腹が立った。松下さんのことばにすっかり甘えてしまった私は、とにかくきれいにしなければと、それだけを考えながら掃除を続けた。
チリトリでとると、あとは猛獣舎と同じで、デッキブラシで床、カベ、台の上などをみがく。サルの場合は、高い所にもとびうつるため、みがく所も多い。そして、水で流す。これこそはっ!と、勢いよく水を出して、カベは高い所から(服がぬれたことは言うまでもありません・・・)床はすみから流していった。手抜かりのないように、まんべんなく何度も流した。
時々、サルたちが背中合わせになっている外のおりの窓からじっとのぞいたり、窓をガタガタならしたりして驚かす。小さいのに迫力を感じてしまった。猛獣よりも恐い。
水を流しおえて、これでいいんだろうかと思いつつ、次の部屋へいく。こんな調子で、かなりもたもたしていたように思う。今思うと、なぜもっと頭を使わなかったんだろうと、悔やむことばかりである。
三つ目の部屋をやっている頃に、松下さんが現われ(突然だったのでびっくりした)”そんなことじゃ、日が暮れてしまうよ”と、言われてしまった。”すみません・・・”松下さんの仕事はこれだけではないのだ・・・・!手伝いのつもりが、とんだ足手まといになってしまった。あとは松下さんのやるのを見ていた。さすがはプロ!私の苦心したえさ、フン集めは、ホウキなど使わずにホース一本であっというまに、おわらせてしまった。その鮮やかさに私は感心するばかり。
四番目のおり(シロガオオマキザル)に、巨大なムカデが出現した。私は目が悪いので、松下さんの指さす方をみても最初は全然わからなかったのだけど、それがムカデだとわかった時は、その大きさにびっくりしてしまった。ゾォー。さすがの松下さんも苦手だそうだ。(弱みをみつけてしまった)時々、出るのだそうだ。ムカデだけでなくゴキブリも・・・しかも、サルによってはゴキブリをとって食べてしまうというから恐ろしい。鶏頭を食べるのよりも許せない!!(ねー、ヤッコ)
おりの外がだんだんとにぎやかになってきた。ジュンくんとベリーちゃんの前はお客さんの集まりがいい。やっぱり人気者だな。
サル舎を出て、木々の間を通りぬけ、ワラビー舎へ。こちら側の道は、お客さんは通行禁止になっていて、私もはじめて足を唐ン入れただけにうれしかった。でもしっかりしたきれいな道なのに、どうして通行禁止になっているのか不思議だったのだが、それはサクが一重で手すりもないので、お客さんの危険防止のためと、動物たちの安心できる場所をつくるためだそうである。なるほどなぁ・・・両側から、お客さんに囲まれたらかわいそうだものな!!
さて、ワラビー舎のそうじとえさやり、ワラビー舎の中に入れるだろうか?と楽しみにしていたのだが、実は動物と一緒に入るということは大変危険なのだそうだ。猛獣などの場合、危険なことは初めからわかっているため、一緒に入るようなことはしなく、カギさえしっかりすれば安全なのだが、おとなしそうな動物ほど近づくと思わぬけがをしてしまうのだそうだ。ワラビーもあの丈夫な尾で立ち、ひっかく危険があるという。そのため、私は外から見学させていただくことになった。外から見ていれば、なんということはない、目のくりくりしたかわいい動物なのにな!!
それから、私の入れないもう一つの理由があった。ワラビーたちは、いつも松下さんの歩くコースを知っているため、自分たちの居場所もちゃんと決まっているという。だから、複数の人間が入ると、逃げ場を失い、警戒、興奮してしまうのだそうだ。野生の動物なんだということをつくづく感じた。ちょっと残念な寂しい気もした。
松下さんは中に入って、ピヨンピヨンと近付いてきたワラビーの頭をなでた。長年、愛情をもって世話をしているからこそ、ワラビーも安心して、できることなんだなあと、うらやましく思った。ちりとりに糞をとり、餌を餌箱に入れる。ワラビーの餌は、食パン、サツマイモ、ニンジン、キャベツ、ペレット。私が見ていた時はみんなして食パンを手に持ち、おいしそうに食べていた。
ワラビー舎の仕事が済むと、次は隣のアキシスジカ。一年中、白い斑点が消えないという美しいシカである。ここの動物は、おとなしくほとんどむかってくる心配はないのだそうだが、万一ということもあるため外で見学させていただいた。一頭、立派な角を持ったオスジカがいた。どうしても、その角に目がいってしまうが、実は角よりもメスの前足のツメが怖いという。どんな動物でも、自分を守るために、いろんな力を秘めているんだ。
いつかの雷雨の日、雷に驚いたシカがさくの金網に激突したという。堅そうな金網がところどころ曲がっていて、その時の痛々しさを物語っていた。鼻と口にひどいけがをして、何日かは、餌を食べられなかったそうだ。せまいおりの中では、そういうこともあるんだ。
動物園の動物がけがをした場合、大抵はそのまま放っておくのだそうだ。なぜかというと、かえって治療するためにつかまえることの方が、動物にとって心の負担になり、けがを悪化させることになるからだそうだ。なるほどな。むやみにつかまえることの重大さを知った。まず、第一に動物たちの心を考えてあげることが大切なのだ。
再び、オランウータンの方へ戻り、ジュンくんのお父さんテツの部屋のそうじをやらせていただいた。改めて、デッキブラシとホースの使い方を教わり“今度こそ、完璧にやろう”と思った。デッキブラシは昨日の体験でもわかったとおり、ジュッジュッと大きい音がする程力を入れないと、きれいにならない。床がざらざらしているせいか昨日よりも手応えがあり、音が出たように思った。カベもコツがわかってきたような気がした。
ホースは、先を軽く折ることによって、水を勢いよく出すやり方もあった。これもコツがいるけど、うまくいけばこっちの方が手が疲れない。ひととおり流し終わったが、隣で松下さんのデッキブラシの音が聞こえていたので、こんなに早く終わってはいけないと思い、またデッキブラシを握った。暗いおりの中で、デッキブラシの音だけが大きく響く。音を意識しながら何度も何度も流してはみがいた。汗があとからあとから流れ落ちる。朝の筋肉痛もすっかり忘れていた。今までのそうじの中で一番疲れたような気がした。なんだか急に、猛獣舎での仕事ぶりが貧弱に思えてきて川畠さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。(次号に続く)

« 50号の8ページへ50号の10ページへ »