でっきぶらし(News Paper)

« 269号の3ページへ269号の5ページへ »

中型サルのお引越し エピソード0

中型サル舎は1988年に建設された獣舎で、経年劣化が見られるため修繕工事を実施することになりました。工事と言っても、施設が新しく生まれ変わるリニューアル工事ではなく、現状の獣舎の形はそのままに、古くなって傷んだ箇所やひび割れ等を直す工事です。獣舎に動物がいる状態では工事が行えないため、2022年9月12日(月)に動物たちを他の獣舎に移し、一部を除いて展示を休止することになりました。

さて、他の獣舎に移すと言っても、ニホンザル、マンドリル、ブラッザグエノン(♂群れ、♀群れ)、アビシニアコロブス、シシオザルの計5種16頭のサルたちを飼育できるスペースはなかなかありません。昨年度から検討を始め、まず候補に挙がったのがバックヤード棟。飼育事務所の裏手にある非公開施設で、お客様が目にする機会はないと思いますが、散策広場へ向かう途中に左手に見える建物です。ここには大小4組の部屋とプール付きの部屋、そして小型のケージなどがあり、検疫や治療などの一時的な動物の飼育や同居の練習、鳥の育雛などを行うことができる施設です。今年生まれたモモイロペリカンの人工育雛や夏の間はヒゲワシの避暑地として、またフェネックのお見合い・同居などにも使われていました。

4組の部屋はマンドリル級(部屋①)、シシオザル級(部屋②)、ジャガー級(部屋③)、チンパンジー級(部屋④)と階級分けがされており、おおよそこれらの動物を一時的に飼育する広さや強度があることの目安となっています。部屋④は一番日当たりが良く暖かいため、シシオザルの♀3頭で使ってもらうことにしました。ブラッザグエノンの♀4頭は広い部屋③、ブラッザグエノン♂2頭は少しコンパクトな部屋②と決まりました。マンドリルのサマンサは、1頭のため動物病院の飼育スペースに入ってもらうことになりました。お隣にはマンドリルのマロン、その奥にはシシオザルのぺぺじいちゃんがいるエリアで、いずれマロンとサマンサの同居も考慮しての判断でした。さてバックヤード棟の空き部屋は残り1部屋。ニホンザル3頭とアビシニアコロブス3頭の移動先がまだ決まっていません。そこで、園内の他の獣舎で使える場所はないか?となり、類人猿舎にお願いすることになりました。類人猿舎は現在チンパンジーを展示していますが、過去にはゴリラやオランウータンも暮らした大きな施設で、少し前までチンパンジーの「げんき」が使っていた展示場と寝室がちょうど空いていました。下見をして、類人猿の飼育担当者にも了承してもらい、なんとか飼育スペースは確保できました。実は飼育担当者として一番悩んだのは、ニホンザルとアビシニアコロブスをバックヤード棟と類人猿舎のどちらに移動させるかでした。中型サル舎の工事期間は10月から翌2月までの冬の期間です。日本の寒さもへっちゃらで地面で過ごす時間も長いニホンザルと、寒さが苦手で樹上性のアビシニアコロブス。ニホンザルを類人猿舎に移動すれば、冬の間も寒さを気にせず展示ができます。バックヤード棟ならエアコンもあります。しかし、最終的には類人猿舎にアビシニアコロブスを移動させることにしました。理由は、アビシニアコロブスのピン(♂)が秋ごろに愛知県の日本モンキーセンターに移動することが決まっていたからです。ニホンザルを類人猿舎に、アビシニアコロブスをバックヤード棟に移動すれば、非公開の間にピンが出園してしまい、お客様は最後に一目ピンに会うこともお別れをすることも出来ないかも…。秋ごろまでなら寒さで展示できないなんてこともないし、類人猿舎の室内展示場を公開すれば冬の間も展示を継続できると判断しました。かくしてようやく、すべてのサルたちの移動先が決まりました。

しかし、ここでまた問題が。類人猿舎は文字通り類人猿を飼育するために設計された獣舎で、強度はばっちり問題ないのですが、天井の檻の隙間がやや広いのです。チンパンジーやオランウータンにとっては、なんの問題もないのですが、アビシニアコロブスなどのサイズのサルだと檻の隙間に頭がはまってしまったり、最悪の場合すり抜けて脱走したりしてしまうのでは…?中には過去にオランウータンのジュンが檻を曲げ、隙間がさらに広がっているところもあり、これはちょっと心配…。万が一のことがあってはいけないと、天井に網目の細かい檻をもう1枚かぶせ、対策をしました。

こうして、ニホンザル・ブラッザグエノン・シシオザルはバックヤード棟へ、マンドリルは動物病院へ、アビシニアコロブスは類人猿舎に移動し、10月23日(日)にはピンのお別れ会も開催することができました。移動後の様々な裏話やエピソードは、園のブログなどで配信していきますので、ぜひそちらもチェックしてみてください。工事が終わり、サルたちが戻ってきたらまた会いに来てくださいね!

(横山 卓志)

« 269号の3ページへ269号の5ページへ »