でっきぶらし(News Paper)

« 209号の4ページへ209号の6ページへ »

≪病院だより≫目の下のたんこぶ?

 当園では熱帯鳥類館でソリハシセイタカシギとクロエリセイタカシギの二種類のシギをどちらもオス、メス一羽ずつ一緒に飼育しています。ソリハシセイタカシギは上に反っている「はし」=「くちばし」を持っている背の高いシギで、ユーラシア大陸に広く分布しています。エサの時間になると左右にくちばしを振りながらエサを食べる光景が見られます。クロエリセイタカシギは首の回りが黒く、ピンク色の細長い脚を持った背の高いシギで南北アメリカに分布しています。両方ともスマートな鳥です。
 ある日、そのうちのクロエリセイタカシギのメスの目が腫れているという連絡が飼育担当者から入りました。熱帯鳥類館へ行って見てみると確かに左目が大きく腫れています。そこでしっかり腫れている部分を見るために捕まえてみました。触ってみると少し硬く、赤黒く腫れていました。このシギ舎ではクロエリセイタカシギよりもソリハシセイタカシギの方が強いので、何かの拍子に追われてガラスか壁にぶつかったりした可能性も考えられました。とりあえずは、注射をした後、軟膏を塗ってしばらく様子を見ることにしました。
 翌日になると赤みがひいてきて、若干大きさも小さくなったように感じましたが、その後は大きさの変化はないようで、一週間以上たっても小さくならないまま、ある日担当者から「さらに目の腫れが大きくなっている」と連絡が入りました。熱帯鳥類館に行き、捕まえてみると、左目の下の部分がさらに大きく腫れてしまっていました。そのせいで黒目の部分も腫れに覆われてしまい、目も見えていないようです。「目の上のたんこぶ」ということわざがあります。目の上にたんこぶがあると、何を見るにつけても、気になって邪魔に感じるということから生まれた、「何かと目障りであったり、邪魔なこと」を意味する、もののたとえですが、「目の下のたんこぶ」でも大分邪魔なようです。
 この「たんこぶ」は皮膚の下だけで留まっていて、その下の骨とは繋がっていないようでした。この正体を知りたいと考え、注射針を刺して吸って顕微鏡で調べてみようと思いましたが、いくら注射器で引いても、全く吸い取れません。その日は、軟膏を塗って終了としましたが、今後継続して治療をしなければならないと思いました。しかし、毎日、他のシギがいる中で捕獲、治療をするのは、他のシギ達にも良くない影響があると考え、翌日病院に入院しました。
 そこで、まずは注射や目薬、塗り薬などの薬を継続して、どうしても小さくならないようだったら麻酔をかけて、手術をするという方針で治療することにしました。入院することによる食欲の低下も心配しましたが、もの凄い食欲で、かなりの量を与えても完食です。普段威張っている、ソリハシセイタカシギが居ないので、落ち着いて食事を楽しんでいるのかもしれません。
 治療のために捕獲する際には、このシギは体が軽く ふわっと上にヘリコプターのように舞い上がるので、手早く捕まえなければなりません。また、脚が細いので 痛めないように気を付ける必要もあります。このシギが小型犬のように鳴くので、飼育員は「ワン、ワン、ワン」と声をかけながら驚かせないよう捕獲しています。
 数日すると大分腫れがひいて、外から黒目が見えるようになってきました。それまで左目はほとんど見えていないようでしたが、少しずつ見えるようになってきたようです。しかし、まだ腫れが残っている方向は見え難いようで、「目の下のたんこぶ」は、やはり邪魔なようです。一週間ほど注射を続けたあと、目薬と塗り薬のみに変更しました。この頃になるとシギも捕まえられることになれたようで、あまり鳴かなくなりました。
 「たんこぶ」は小さくなりましたが、まだ残っているので、今しばらく時間をかけて治療を継続しなければなりません。いつか退院したら熱帯鳥類館へ会いに行ってあげてください。ただ、その時は「ワン、ワン、ワン」と言わずに静かに見守ってくださいね。

動物病院担当 金澤 裕司

« 209号の4ページへ209号の6ページへ »