でっきぶらし(News Paper)

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≪病院だより≫ミドリとチャ

 皆さんは当園で飼育しているピグミーマーモセットと言うサルを見たことがありますか?
 サルの仲間は大きく「原猿」と「真猿」と大きな二つのグループに分けられます。原猿は鼻先が長く、夜行性であるなど、サルの仲間の中でもその祖先に良く似た特徴を持つグループです。それに対して、真猿は簡単に言うとサルらしいサルで、皆さんが「サル」と言う言葉から思い浮かぶ仲間達です。
 ピグミーマーモセットはその真猿の仲間の中で最も小さなサルと言われていて、大人になっても体重は120〜150g程の毛色が茶褐色のサルです。野生下では昆虫や樹液、果実、花などを食べていますが、樹液を食べる前の日に木の皮を歯で傷をつけて、樹液が沢山溜まった次の日に樹液を舐めに来る行動が確認されています。この「収穫」の様な行動は人間とピグミーマーモセット以外にはまだ確認されていない様です。また子育ては母親だけで行うのではなく、家族全体で子供の面倒を見ます。
 日本国内の動物園ではピグミーマーモセットは全国で30頭ほど飼育されていて、当園では一組のペアが順調に繁殖しています。昨年末には全部で6頭飼育しており、その内の3頭が現在のペアの子供達でした。
 年が明けて1月3日に再び双子の赤ちゃんが産まれました。お母さんはベテランですし、家族の赤ちゃん面倒見も良く安心して見ていました。しかし1月8日頃よりお母さんの体調が悪くなり、1月10日の朝に床でうずくまってしまい、すぐに入院しましたが死亡してしまいました。ピグミーマーモセットが家族で赤ちゃんの面倒を見ると言っても、お母さんがいなければお乳を飲むことが出来ませんので、その日から、赤ちゃんをおんぶしていたお父さんから離し、病院に入院させて人の手で育てる人工保育にすることになりました。
 2頭とも体重は20g弱で、性別は両方ともオスでした。2頭の住まいは人間の赤ちゃん用の保育器で、温度や湿度が丁度良く保たれます。
 また本来は家族にしがみついて赤ちゃんの時期を過ごすので、落ち着くようにサランラップの芯位の太さの筒に起毛した布を張り付けた抱き枕を保育器の中に入れました。その後の哺乳量や体重などを記録するために個体を見分けられるようにしなければならないので、片方に緑色の印をつけて「ミドリ」と名付けて、もう片方は印を付けずに毛の色から「チャ」と名付けました。
 産まれてから一週間経過していたので、人を受け入れてくれるか心配でしたが、ミルクを口の中に含ませてあげるとペロペロと舐めながら飲んでくれました。2、3日もすると少しずつペロペロ舐めるだけではなく、吸いつくように飲むようにもなりました。
 しかし基本的にあまり落ち着きがなく、集中してミルクを飲まないので、二頭交代で休みながら哺乳をしました。また、音に良く反応して、哺乳の途中で、以前人工保育で育った病院の住人のエリマキキツネザルが「ギャー、ギャー」騒いだり、携帯している無線が音をたてたりするとピタッと飲むのを止めたりしてしまいました。
 生後四週目あたりから、バナナをすり潰した離乳食を与え始めると、すんなりと受け入れてくれて、パンをミルクに浸したものなども与えて徐々に離乳させてゆきました。離乳後、保育器からケージに移してからも、出来るだけ体重測定を続けようと思っていたのですが、生後四カ月過ぎ位から手にとろうとすると徐々に逃げるようになってきました。それでもしばらくは抱き枕を目の前に差し出すと乗ってくるので、体重測定が出来ていたのですが、そのうちそれも出来なくなってきたのであきらめることにしました。まだ哺乳している頃も哺乳室に入ると「キー、キー」鳴いて、近寄って来たりするのでお腹が空いているかと思っていても、いざミルクをやろうとすると逃げ出したり、人に依存しているようで、意外に自立している感じがありました。
 今回は双子だったので、ヒト―サルという一対一の関係にならずに、自分が人間だと思いこむようなことが少なかったのかもしれません。とくに「ミドリ」はその傾向が強かったように思えます。
 また、哺乳類の赤ちゃんは文字通り、乳を飲ませることによって育てられます。子供が産まれるとお母さんの乳房からは乳が出始めますが、最初の何日かに出てくる乳を「初乳」と言います。初乳にはその後出てくる通常の乳と比べて蛋白質やミネラルが多く含まれていて、病気に抵抗するための「抗体」という物質も豊富に含まれています。今回の人工保育では下痢などもほとんどせず、順調に育てることができました。それも初乳を充分に飲んでいたおかげかもしれません。お母さんが最後に残してくれた子供達がなんとか成育してくれてホッとしています。

動物病院 金澤 裕司

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