でっきぶらし(News Paper)

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病院だより  ミドリちゃんとの一年間

11月12日の朝、病院の入院室の扉を開けて部屋の中をのぞくと、いつもは目が合うとじっと見つめながらバタバタと動き始めるミドリちゃんが、横たわったままじっと動かずにいました。「ミドリ、ミドリ」と声をかけても、すでにかたまった身体が再び動き出すことはありませんでした。
クロキツネザルのミドリちゃんが病院に入院したのは、昨年11月のことです。ある朝、突然自分の尾と足を骨が露出する程激しく咬んでしまい、緊急手術をして入院しました。自分の足を咬んでいるという判断が、本人もできていないような、かなり興奮した状態でした。
当時私は病院の担当になってまもなく、自咬症(自分で自分の身体を咬んで傷つけてしまう)の動物を見たのは初めてだったので、その状態にぞっとしたのを覚えています。ミドリちゃんは人工哺育をした個体で、子供の頃はお客様の前に出て触れ合いもしていました。親の元へ戻そうと試みましたが仲間に入れず、展示室裏にある寝室の隣りに設置したケージ内で暮らしていました。見に行くと、よくケージの中でバック転をして元気に動き回っていたことを思い出します。
ミドリちゃんは入院後も尾や足を咬んでしまい、精神安定剤を飲ませないと落ち着かない状態でした。患部にはギブスやカバーをはめて物理的に咬めないようにし、定期的にテーピング交換をするようになりました。しかし、傷が膿み、皮膚がむけ、骨が露出し、患部の先端を切断しなければならないことが何度もありました。その度に麻酔をかけて手術をし、彼女の身体にかなりの負担をかけてしまいました。状態が良くなり薬をやめてみたとたんに咬んでしまうこともあり、入院中ほとんどずっと薬を飲ませていましたが、なかなか自咬をとめられませんでした。
そして、入院して一年。尾と両足はだいぶ短くなってしまいました。食欲が次第に落ちていき、痩せが目立ち、残念ながら状態が改善することはなく、ミドリちゃんは亡くなりました。病院で世話をしてくれていた担当者の一人が、「これ以上苦しい思いをしないで楽になれたかもね」とミドリちゃんに言葉をかけてくれたとき、「助けてあげられなくてごめんね」という思いで胸がいっぱいになりました。
ありがとうミドリちゃん。安らかに眠って下さい。
(野村 愛)

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