でっきぶらし(News Paper)

« 30号の2ページへ30号の4ページへ »

鳥類の繁殖 〜前編〜

“でっきぶらし”も今回で10号を迎えることになりました。各種のベスト10からZOO日誌の集約とも言える動物園の1年、友の会の多大な協力の元で行われた動物園アンケート、今回の鳥類の繁殖で、日本平動物園の歴史、概要をだいたい説明できたのではないかと思います。

鳥類の繁殖も最初は哺乳類と同じく、ベスト10を組もうと思いました。しかし、放し飼いにしているクジャクや、ホロホロチョウの繁殖を確実につかむのが難しい上、育すう関係は増減を多少調整していたようでした。そこでベスト10はやめて、主に繁殖した鳥類を、ある程度の失敗例を含めて紹介することにしました。
本題に入る前に、開園当初からの繁殖の流れを、おおまかに追ってみましょう。当園でもし鳥類の繁殖第1号はと言う問題が設定されれば、たいていの飼育係は、オオヅルと答えるのではないかと思います。残念ながらこれはペケ。正解はかつて熱帯鳥類館の裏で飼育されていた、コザクラインコでした。開園翌年のこの年は、他にシロエリオオヅル、フサホロホロチョウが繁殖をしていて、他の記録は見当たりませんでした。
その後しばらくは、鳴かず飛ばずの時期が続いたものの、昭和49年頃より上向き始め、鳥類の話題に事欠かないようになりました。そんな賑やかさも長くは続かず、55年頃より再び落ち込んで、最近は、繁殖の話題も乏しいと言う状態になっています。
それでも、今年はフラミンゴが産卵をし始め、いくつかはフ化、あるいはフ化寸前までこぎつけることができました。又、昨年は涙を飲んだコンドルも、フ卵器でかえすことができ、今も育すうに奮戦中で、元気に育っています。
そこで、例え1羽でもフ化のこぎつけたものを含めると、現在までに繁殖した鳥類は、25種類と言うことになります。今年10月現在で81種類を飼育、その全てが“つがい”ないし、それ以上で飼育されている訳ではありませんから、単純に比べる訳にはいきませんが、哺乳類と比べてもかなり低い繁殖率です。
雑居飼い(フライングケージ、熱帯鳥類館、開放展示室)が多く、餌付けるだけで精一杯のも結構あります。それに、哺乳類以上に、環境の変化に過敏に反応することを考え合せれば繁殖率の悪いのも、ある程度はやむを得ないかもしれません。
それでは、主に繁殖した鳥類を紹介して行きましょう。

◆フンボルトペンギン◆
5年前に人工育すうで育てられたロッキー(オス)が、今卵を抱いています。無事にかえり育てば、3代目の誕生、まずは万歳と言ったところです。
こんな風に書き出せば、順風満帆にいっているように見えますが、あのロッキーも、いくつものペアが卵を産み抱く中で、試行錯誤を繰り返し、やっとのことで育てあげた個体なのです。
開園当初は、彼らが安心して卵を抱ける営巣地すらなく、卵があちこちに転がっている状態でした。その後、私たちが苦労して掘った巣穴を利用し出し、何とかフ化させて、しばらく生かすことができたのが、9年前の6月です。
ロッキーと共に産まれ、自然育雛の方も無事に育って、本当の意味で繁殖第1号、2号を数えるまで、更に4年の年月を要しました。
ロッキー以後も、成績はさ程芳しくなく、今年人工育すうで育ったマッチを含め、今まで18羽かえしながら4羽しか育っていません。

◆シロエリオオヅル◆
開園してからのしばらくは、フライングケージで飼育されていました。このオオヅルは同居しているどの種類よりも図抜けて大きくて他を圧倒、暴れん坊ぶりを思う存分発揮して、無法地帯と化していました。
このフライングケージで、開園した翌年より3年続けて繁殖したのですが、小さな鳥類を何羽か殺すだけでは飽き足らず、遂にペリカンをも殺傷するに至り、追放の憂目にあいました。
池のほとりの新たな住居に移っても、旺盛な繁殖力は変わらず、毎年順調に産卵、ヒナをかえしていました。土壌細菌の影響で、発育の途中で死なせてしまうことが2度程ありましたが、これも土を入れ替えることによって克服、昭和53年〜54年は、続けて2羽ずつ育てています。
昨年、一昨年と卵は無精で、残念ながらフ化させることはできませんでした。が、今日までの総計は、人工フ化を含め24羽をかえし、14羽が無事に育てられています。

◆ショウジョウトキ◆
鳥の話しになると、どうしてもフライングケージが主体となります。このショウジョウトキは、開園時ほんのわずかな期間、熱帯鳥類館で飼育されていたのですが、そこでは無理と言うことで、フライングゲージに引越してきました。
見る見る失せてゆくトキ色に、一時は繁殖どころか、飼育するだけでも大変でした。餌に工夫、ただコアジの切り身を与えるだけでなく、ドジョウ、アミエビを与えたりしてゆく内に、彩やかなトキ色が前にも増して復活してきました。
昭和50年頃より営巣活動が見られ、その翌年の春にも再び営巣、それはフ化までしかこぎつけることができませんでした。しかし、しばらく間を置いて、この年2度目の営巣に入り、これは、見事に育てあげてくれました。
その後、4年間は順調に繁殖が続きましたが、残念なことに、現在は完全にストップしています。この間のフ化総数は、22羽で9羽が無事に育ちました。

◆アメリカオシ◆
もしベスト10を組めば、文句なく他を大きく引き離してトップでしょう。1度に8〜9羽を簡単にかえし、それを育てるのに失敗すれば、再び産卵するのですから、その繁殖力の凄さがわかろうと言うものです。
昭和48年の9月と11月に購入、その翌年より繁殖し出し、フ化総数は実に106羽、途中で死んだものが26羽で、差し引いても80羽を数えることができます。
これほど盛んだったアメリカオシの繁殖も、このろころさっぱり話しを聞きません。一見無神経で、何もしなくても増えるようでも、ちょっとした心遣いの足りなさ、環境の変化でビタッと止まってしまうようです。フライグケージで飼育されているカモ類で、このアメリカオシ以外にオシドリ、カルガモ、マガモが過去に1〜2回繁殖しています。

◆バン◆
私たちの夢と言うより、私たちがやらなければならないひとつに、国産動物の繁殖があります。しかし、実際にはなかなかむつかしく、13年経験したプロが情けないと言われても、恥ずかしながら、何も言い返せないのが実情です。
国産の哺乳類でも繁殖に導いているのは、ニホンザルとタヌキぐらいで、後は、せいぜいキツネの姿、形だけと言うぐらいのものです。
そんな中で、このバンだけはよくヒナをかえしています。全般に繁殖の衰えているフライングケージで、今年もフ化したと言う朗報があったぐらいですから、なかなかたいしたものです。
バンみたいなものは簡単、当たり前じゃないかと言われそうです。が、そんなひとつひとつの積み重ねが、いつか“いざと言う時”神経の細やかな、国産の鳥類に立ち向かえるのだと思います。(以下次号に続く)
(松下憲行)

« 30号の2ページへ30号の4ページへ »