でっきぶらし(News Paper)

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動物園の一年 〜昭和56年度 PART?U(後半)〜

[9月 〜カワウソの死・他〜]
9月はムネアカタマリンが流産しただけで、出産はありませんでした。
新たに展示されたのは、フロリダキングスネーク、カルフォルニアキングスネークという、皆様が、体をぞくぞくさせる程大好き?なヘビ。上野動物園から、ボアコンストリクターと舌を噛みそうな名の、ヘビも寄贈されています。
ヘビは嫌いだと、そう邪険にしないで、一度はじっくり見て下さい。よく見れば、かわいい顔をしていますよ。
他に、小獣舎で飼育されていた、ヨーロッパカワウソが急性肺炎・腎臓結石で死亡しています。
このカワウソほど、観客にいじめられた動物はいないでしょう。ひどい時は、頭に大きな石をぶっつけられ、血を吐き、このままだめになってしまうのではと、思われたこともありました。とにかくやたら石をぶっつけられたのです。獣舎の構造が、上からのぞき込むようになっていて、いたずらがしやすいのでしょうが、何もしない、できない動物に非情なことをするものです。
つい先日も、ライオンに石を投げている少年たちを見つけ、きびしく叱ったことがありました。動物は愛すべきもの、いじめても決して楽しくはないはずです。カワウソの死を悼むと同時に、動物の健康を維持する大変さを知ってもらい、もういじめないで下さいと訴えたい気持ちでいっぱいです。

[10月 〜オグロワラビーの出産・薬物中毒事件〜]
オグロワラビー(オーストラリアに棲むカンガルーの仲間)の仔が、袋(育児のう)より顔を出し始めました。1977年3月以来、しばらくは増える事がなかったのですが、ここ2年は順調に繁殖しています。一時は、3頭ぽっきりの淋しい家族も、今は、袋から顔を出した仔を含め、6頭の賑やかな家族になりました。
ただ、前回、前々回共に、一番大事なところで袋から落ちてしまい、人工哺育に切り換えざるを得ませんでした。袋から顔を出すようになって1ヶ月前後がその時期で、そこを通り過ぎると、自由に出たり入ったりするだけの体力がつくようです。
今回は、その時期が来ても落ちることもなく、どうやら無事に乗り越えてくれました。ちょこちょこと出歩いては、何かに驚き慌てて袋の中に入る。そんな愛らしい姿がよく見られる中、すくすくと成長してゆきました。
10月は私たちを驚愕させた事件もありました。昼休みの、私たちが一番のんびりしている時間帯をついて、動物たちに毒物を与えた輩がいたのです。
馬鹿を言いながら休んでいる時、「オマキザルが倒れている。」「リスザルが木から落ちてあわをふいている。」の一報が入り、一瞬、キツネにつままれたような気になりました。つい先程まで元気な奴が、いったいどうして・・・。
病院に収容されたオマキザル2頭、リスザル4頭はもう体を横たえて弱々しく呼吸しているだけです。どうも毒を盛られたらしいが、毒物の正体はわからないと言うことです。
中毒症状を起こして、木から落ちてしまったリスザル1頭は、脳内出血を起こして死亡してしまいましたが、幸い他のサルは、翌日には元気を取り戻し、数日後には群れに戻すことができました。
それにしても許せない悪戯。犯人を見つけたら八つ裂きにしても飽き足りません。怒りがふつふつとこみ上げてきます。(県警の科学捜査研究所に毒物の正体の判明を依頼しましたが、残念ながらその正体をつきとめることはできませんでした。)

[11月 〜オオアリクイの来園・他〜]
11月の唯一の繁殖は、ホッキョクグマでした。結果は、でっきぶらし3号・4号でお知らせした通りです。他園の状況をみても、北海道の旭山動物園での2例があるだけで、生まれても無事に育っていないのが現状です。人工哺育も、6ヶ月以上育った例はまだありません。
爬虫類館の横に、ミラーハウス・ビックリハウスがあったのは御存知でしょうか。そこに動物舎が新たに設けられ、オオアリクイが11月より展示されました。
この動物はその名の通り、アリを主食にしている動物です。飼育下では、たとえ1日でも、アリを確保するのは無理でしょう。そこで、代用食の餌付け(鶏肉をミンチにし、タマゴとミルクに混ぜて与える)となる次第です。その苦労話しは、でっきぶらし1号に紹介されていますので、又読み返して頂くと楽しいかとも思います。
オス1頭、メス2頭の3頭の内のオスが、まだ小さくて、自分で歩こうとはせず、メスの背中に乗ってばかりいて、まるで親子のように見えました。当然のことながら、ここに来るお客様は、たいてい、親子と見間違えていました。それほど微笑ましく見えたのです。
残念ながら、繁殖に導くのはむづかしく、日本での繁殖例は皆無、外国でも、稀であると言うことです。

[12月 〜アキシスシカの出産・トドの死〜]
アキシスシカが、3頭目の仔を出産しました。3年前、来園したばかりの頃は、まだ若く弱々しいペアで、オスの角もまだチョコンと申し訳程度にしか生えていませんでした。ずいぶんたくましく育ってくれたものです。
繁殖も順調で、翌年の3月にはオスを、更に翌年の1月にはメスを、その暮れにはオスをと、産み続けました。隣にいるオグロワラビー同様、賑やかな家族になっています。
世界で一番美しいと言われる、このアキシスシカ。オス・メス共まだまだ若く、繁殖力も旺盛、そのうち増えすぎて悲鳴をあげるかもしれません。
このアキシスシカが生まれる2日前に、北海の海獣トドが、ついに死にました。もう数ヶ月も前から餌のサバを食べなくなり、苦しそうにしている姿ばかりが目につき、新鮮なイカに薬を混ぜて与え、かろうじて生き長らえいる状態でした。
横たえたその体は、やせて見る影もなく、かつてのあの勇姿は、どこにも感じることはできませんでした。元気な時には、1トン近くはあっただろうと思われた体重も、わずか330キロに減っていたのです。
このトドには、飼育係それぞれに、思い出深いものがあるでしょう。園内屈指の暴れん坊で、今にも咬みつかれそうになった飼育係も何人かいます。池の清掃日は、水を抜かれて機嫌が悪く、トドのまわりを掃除するのはいつもおっかなびっくりでした。
あれやこれやと思い出していると、きりがないぐらいです。かつてよく見せてくれた、華麗でかつ力強いダイビング、もう2度と見ることはできません。

[1月 〜オグロワラビーの出産?U・トラの死〜]
オグロワラビーのビビ(人工哺育で育った仔の名前)のお腹に仔がいるよ。トドの死、チンパンジー流産の悲報の後だけに、何とも明るくすがすがしいニュースとして響きました。
人工哺育をしながら、“袋の中をいつでものぞけるように訓練しておこう”そう思った担当者の、じみちな努力が実ろうとしているのです。袋から顔を出した仔の、観察記録はあるのですが、袋に入っているまだ小指の先程しかないころからの仔の記録は、極めて稀なのです。
ビビは、担当者によく馴れていて、おとなしく、抱けばいつでも袋の中を見せてくれます。きっと、貴重な資料を残してくれることでしょう。そして夏頃には、皆様の前にも、かわいい顔を見せてくれるかもしれません。
1月の、信じられないような出来事と言えば、トラの窒息死。お正月、お年寄りがおもちを喉につっかえ、窒息死した話しは耳にしますが、毎日毎日食べている肉を吐き出し、しかも、それが喉と鼻にくっついて、窒息死するなんて前代未聞の話しです。信じようと信じられまいと、そこにあったのは肉片が口につまったまま、ピクリとも動かないトラの姿です。
昔から、油断や怠慢を戒めることわざはたくさんあります。しかし、こんな事件を見ると、いったい何を戒め、気をつければよいのか訳がわからず、体から力が抜けてしまいそうな感じです。

[2月 〜キリンの出産・オランウータン(ユミ)の死〜]
動物の出産を月別に見ると、冬場の1・2月の出産は極めて少なく、3月からぼつぼつ、4・5・6月にかなり集中します。それが過ぎると、又数が少なくなってゆきます。と言う訳で、2月の出産はキリンの出産1件のみ、他には何もありませんでした。
結果はどうなったのか、3号の近況、4号のぐうたらママ等で紹介していますので、ここでは省かせていただきます。
2月に襲ったショックは、何と言ってもオランウータン(ユミ)の死です。誰もが、信じられないと言う表情を示しました。あれ程大事に育てられ、かつ丈夫な動物が何故、そんな心境だったと思います。
原因をあげればいくつもあり、それぞれ逃れられない責任を持っています。しかも、これほどこの動物園の若さと未熟さを示した病死もないでしょう。4才丈夫で育ち盛りの時期に、肺炎で死なせてしまう。担当者ならずとも、やりきれぬ思いだったのではないでしょうか。
ユミは、幼児教室・サマースクール等には欠かせぬ存在として大活躍しました。アスレチック開園の記念のテープを切った、動物代表もユミだったのです。人には決して咬みついたりせず、おとなしく、動物は恐いという偏見を、どれ程取り除いてくれたことでしょう。私たちの未熟さで、幼く若いうちに死なせてしまいました。どうか冥福を祈ってやって下さい。

[3月 〜ボアの出産・親子の断絶〜]
朝、担当者がボアの部屋をのぞいてびっくり、ニョロニョロと小さなヘビがいっぱい固まっていたからです。ふつう、ヘビは鳥と同じように、卵を産むのですが、なかには、このボアのように卵胎生と言い、お腹の中でふ化して生まれてくる種類だと、担当者でもいささか驚いてしまうのです。
何とかしようにも、さすがに母親、仔を守ろうと威嚇してきて、しばらくは静観するより他に方法はありません。正確な数を把握しようにも、グニャラグニャラと固まっているので、10匹ぐらいまで数えるのが精いっぱいです。
翌々日、やっと母親より分けることができ裏の飼育箱に移す時、14匹いるのが確認できました。ふつう、40から60匹ぐらい産むといわれていますから、ずいぶん少ない数です。でも、後の貰い手を探すことを考えると、ほどよく産んでくれたと言えるでしょうか。
トラの父親が、吐き出した肉を喉につかえて、窒息死したことは先にお伝えしました。これに代わるべきオストラが、ようやくやってきたのです。
この異変を敏感に察知したトラの母子は、いつものようには寝部屋に入ろうとしません。その内なんとか母親は入ったのですが、仔トラ3頭は、異様な雰囲気にすっかり臆してしまったようです。「仕方ない、仔は放飼場に出しておこう。今夜は別居だ。」この時、誰もこれが母子の縁の切れ目になろうとは、想像すらつきませんでした。
翌朝、母トラをいつものように放飼場に出すと、いきなり仔に向かって行きます。グワォーと、ひと吠えの威嚇に、仔は次々に掘に突き落とされてしまいました。
私たち飼育係にとっても、この光景は何とも理解できませんでした。何度も堀から上げてみたのですが、やはり脅かされて突き落とされてしまいます。1頭だけ、鼻をならしてあいさつ行動をとった仔トラは、どうやら受け入れてもらえたようです。が、あとの2頭は全くだめ、堀の隅で小さくなっています。
たった一夜別居したこの日を境に、母子の縁は切れ、仲睦まじい風景は、見られなくなってしまいました。“あいさつ行動をとらなかった”それが一因にはなっているようですが、動物の世界は、私たちにもわからないことがいっぱいあります。

以上が、この1年の主な出来事でした。
もっともっと書きたい事、ダチョウの便秘、アライグマの手術等の話しがあったのですが、紙面の都合上書けなくて残念です。特に寄贈、保護については、ほとんど触れることができず、1年の“ある部分”が欠けてしまう結果となりました。
次号に、動物園アンケートの集約が載せられた後、過去13年館に渡る保護動物ベスト10を組み、その中で、ここ1年の寄贈、保護の状況も紹介してゆきたいと思います。
次号をお楽しみに!
(松下 憲行)

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