285号(2026年04月)8ページ
初めての標本づくり

こんにちは、ピカピカの獣医師1年生です!
皆さんは標本と聞くと、どんなものを思い浮かべますか?私は大学で統計解析の研究室に所属していたので、調べたい集団を代表して抽出された小集団を思い浮かべます。多くの人は剥製や骨格標本を思い浮かべたのではないかと思います。この他にも動物園で標本と言うと、血液の状態を見る血液塗抹標本、鳥の羽、毛や糞の標本などがあります。どの分野でも標本とは私たちが知識や情報を得るために対象からとったものを指します。
動物園には数多くの標本があり、ビジターセンターに展示したり、ガイドの際に使用したりしています。骨格標本では、生きている動物からはなかなか観察することのできない骨の構造を確認したり、毛皮や剥製では、実際に触ってみて毛の硬さなどの触り心地を確かめたり、間近で観察することで動物の大きさを実感したりなど、標本から色々な気づきや学びを得ることができます。また、獣医師も治療を行うにあたって、骨格標本から骨の太さを確認したり、剥製から酸素マスクの大きさを検討したりもしています。
動物病院では、これらの標本の作製、管理を行っています。昨年、夜行性動物館のガイドに合わせて、ルーセットオオコウモリの剥製を担当飼育員と製作しました。余談ですが、この標本作りの期間に3匹のルーセットオオコウモリが亡くなりました。すべてメスの妊娠中あるいは出産直後の個体で、妊娠、出産は体への負担が大きいのだと改めて感じました。さて標本作製にあたり、まず、解剖は皮を傷つけないように細心の注意を払いました。解剖後は、実際の製作に取り掛かるまで冷凍庫で眠ってもらいました。その間にどこの骨まで取り除くのか、どんな溶液を用いて皮をなめしていくかなどを調べて話し合い、3体のコウモリのうち、2体を別々の方法で剥製にすることになりました。
1体目は、頭骨、胴体の骨、上腕骨、大腿骨を取り除き、ホウ砂をまぶす方法で剥製にしました。しかし、上腕骨を取り除いたことで翼の皮膜部分の骨の支柱がなくなり違和感のある仕上がりになりました。また、やはり頭骨を残して歯も観察できた方がいい、触ってもらいたいからなるべく毒性のないものでなめした方がいいとなりました。
後日、頭骨、上腕骨を残し、食塩とミョウバンのなめし液を使用し2体目を作りました。骨を残す選択により、そこに付着する筋肉等を丁寧に取り除く作業が増えました。頭蓋内の脳は細くて長い注射針を用いて掻き出し、上腕骨の筋肉はピンセットやハサミを用いて取り除きました。昼から始めた作業は1体目の何倍もの時間がかかり、終わったのは辺りが暗くなってからでした。そんなこんなで、苦労して製作した2体目は満足のいくできあがりで、無事に夜行性動物館のガイドにデビューすることができました。私も小中学生を対象とした出張動物園ガイドの際に、このコウモリの剥製を見せています。意外なことに、一緒に並べたホッキョクグマの毛皮よりもコウモリに興味を持つ子が多く、その度に頑張って作った甲斐があったなと思います。3体目は次回のガイドに向けて骨格標本にする予定です。
より多くの学びのために、これからも標本を残していこうと思います。ぜひ生きている動物だけではなく、標本にも注目してみてください。
(沼)
