284号(2025年12月)7ページ
動物病院哺育日記
みなさま、初めまして。今年4月から動物園の動物病院係として働いている新人飼育員です。動物病院には動物園で怪我をしたり病気になってしまったりした動物たちだけではなく、園外で怪我をした野生動物も来ます。今回は動物病院に来た動物の中でも最近獣医師、飼育員共に大奮闘している動物をご紹介します。
その動物は9月に入ってすぐの頃に動物病院にやってきました。今までの野生保護たちは鳥類が多く今回もそうだと思っていましたが、獣医さんからその名前を聞いてびっくりしたのを覚えています。その名もムササビ。ムササビの赤ちゃんが保護され病院にやってきました。来院したときはまだ目も開いていませんでした。獣医さんが注射器の先端に小さな乳首を装着してミルクを与えくれていましたが、最初はなかなか飲んでくれませんでした。その日はそのまま部屋に入れて、ヒーターをつけてタオルをたっぷり敷いて帰りました。
次の日、ムササビの様子を見に行ったら驚きです。なんと初めての場所でひっくり返ったへそ天の形で眠っていたのです。そして大ベテランの獣医さんから排尿と排便のやり方を教わり、この日から本格的なムササビの人工哺育が始まりました。初日はあまり飲まなかったミルクもこの日はごくごくと吸い付いて飲んでくれて安心しました。
人工哺育が始まって7日目の朝、哺乳担当の獣医さんから衝撃の一言。「ムササビ、右目開きました。」見に行くと右目だけぱっちりと開いていました。その日は人間でいうウインクをした状態のムササビでしたが、次の日、また同じ獣医さんから「ムササビ、両目開きました。」との報告。見に行くとぱっちりと両目を開けたムササビがいました。目を閉じているときもとてもかわいかったのですが、大きな瞳が見えるだけでもこんなにかわいさが倍増するのだなと思いました。無事に両目が開いたことでミルクを飲むのも上手になるのかと思いきや、ぼたぼたとこぼしまくり下に敷いているタオルやムササビ自身の口元がべとべとになっていたことは秘密です。
目が開いたことで冒険心が強まり、人の体の上を探検することや、部屋の中をジャンプして動き回ることが増えました。自力排尿と排便はまだできていませんが、ミルクも飲む量がどんどん増え、使用している注射器のサイズもどんどん大きくなっていき、今では注射器ではなく容器から自分で飲んでいます。飲み終わった後の口元は相変わらずべとべとで、サンタクロースのようなおひげができています。ミルクだけでなくリンゴやニンジン、シイの葉やクリなどの固形物も食べられるようになってきました。びっくりしたときに人間のように心臓あたりを手で押さえる姿を見たときはとても面白かったです。何かと話題の絶えないお転婆なムササビですが、立派な大人になれるようにこれからもお世話に取り組んでいきたいと思います。新人飼育員の私もムササビもいろんな経験を積みながら少しずつ成長していきたいです。
(栢木)
