でっきぶらし(News Paper)

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レッサーパンダ、だけじゃない! (1/2)

 でっきぶらしをご愛読いただいている読者の方々の中には、静岡市が今年から「レッサーパンダの聖地」として広報を始めたことをご存知の方も多いかと思います。なぜこのような広報をはじめたかというと、実は日本平動物園は日本動物園水族館協会から依頼を受けて、日本全国各地のレッサーパンダたち、約260頭の血統を管理する、「種別計画管理者」がいるからです。例えばA動物園に男の子のレッサーパンダがいて、B動物園から女の子のレッサーパンダを移動させてペアにしたい!という場合、「種別計画管理者」の許可がなければ移動はできませんし、ペアを組むのに血縁が近くないか、血統の維持が見込めるペアなのかなど、細かくチェックされます。動物園で飼育している希少種には、全てではありませんがこの「種別計画管理者」がいるのです。
 そして、そんな看板動物レッサーパンダの陰でもう1種、日本平動物園が管理している動物がいるのをご存知でしょうか?それが今回のお話の主役、オオアリクイです。
 オオアリクイにもこの「管理者」がいて、ここ最近は動物病院の獣医師が担当しており、今年度からは私が担当することになりました。オオアリクイは日本全国でも4つの動物園でしか飼育されておらず、頭数も13頭と非常に少ない、実は貴重な動物なのです。そしてこれは後々私が思い知るのですが、彼らは動物界きっての「なんだかよくわからない動物」でもあります。
 オオアリクイはその名前のとおり、アリやシロアリを食べている動物ですが、アリ塚を前足の爪で叩き壊して、長くネバネバした舌でアリを舐めとる独特の食事をしています。しかもアリが絶滅しないよう、食事は1分以内に行うという徹底ぶり。このスタイルを飼育しながら再現するのは不可能なので、動物園ではお肉やアリクイ用のペレットをメインに、卵やヨーグルト、園によってはイナゴやピートモス(泥と草をまぜて乾燥させたもの)など、あの手この手で彼ら本来の食事に近づけるよう工夫しています。しかし、それでもウンチが柔らかかったり、個体によってはあまり食べなかったりと、まだ飼育をする上での問題点が残っていました。
 そんなオオアリクイの生態についてあれこれ調べていたある日、ある動物園の「類別事業調整者」の方から電話をいただきました。(「類別事業調整者」は簡単にいえば「管理者」の上司にあたります。)緊張しながら電話に出ると、ある提案をされました。その内容は、「今管理種になっている動物は飼育マニュアルを作ることになってるから、会議しない?ちなみに今までやったことないから初めての会議になるんだけど」というものです。
・・・んん?会議?まだ管理者になってから2か月もたたないのに?内心は「やれるのか?俺」という不安に押しつぶされそうでしたが、私はこう答えました。「いいですね、やりましょう!」と。後で頭を抱えたことは誰にも言っていません。しかし、今後のオオアリクイたちの生活や、彼らの子どもたちを残すために、会議をして飼育や繁殖の情報を共有したほうが絶対にいいに決まっています。
それから、会議用の資料作成や、各動物園にいるオオアリクイたちの血統を調べる日々が始まりました。各園のオオアリクイ飼育担当者の方や、オオアリクイの研究をしている方への事前連絡も忘れてはいけないし、マニュアルを作るためのアンケートの作成、海外で作成されたマニュアルの翻訳、説明用のスライドの作成、開催場所や日程の調整etc,etc・・・。山ほどあるやらなきゃいけないことをこなしているうちに、どんどん日々は過ぎていき、ついに今年の2月(年をまたぎました)、会議へとこぎつけました。
 会議当日、2度3度と持っていく資料を確認し、「がっかりされたらどうしよう」と不安になりながら会場入りしましたが、各園の担当者の方たちや類別事業調整者の方は皆さん優しく、そしてオオアリクイが大好きな方たちばかりでした。用意した資料も熱心に読んでいただき、ウンチが柔らかい場合はササミを使ったり、ミルクを抜いてみたらどうか、繁殖するタイミングはこうしたらいい、オオアリクイの飼育園を増やしていきたい、この園は飼育してくれるかもしれない、などなどたくさんのアイディアをいただきました。そしてついに、飼育マニュアルを作成できるだけの情報が集まり、初の会議は和やかな雰囲気の中終了したのでした。
 その後、参加された方から「オオアリクイを飼育する園が増えるかもしれない」ことや、「もしかしたらうちの子、妊娠してるかも」など、良いニュースがメールで届くようになりました。会議までの仕事は大変でしたが、こうやって他園の方と交流ができるようになったり、情報を共有できるようになり、本当にやってよかったと思える仕事でした。第2回の会議もすでに決まっていますので、次回はもう一歩進んだ内容にしていきたいと思っています。(次ページに続く)

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