でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 62号の5ページへ62号の7ページへ »

62号(1988年03月)6ページ

動物病院てんやわんや〜人工哺育抄〜◎クロキツネザルの出産

 そうこうしたある日、クロキツネザルが出産。3月の下旬になっても生まれない為、分けていたオスを戻した直後のことでした。オスを威嚇、しっかり面倒を見ていたのですが、神経質になり過ぎたのか途中から哺乳を忘れたようで、2日後の29日に子は親より脱落、やはり子は冷えており弱々しく呼吸しているだけでした。幸い居合わせた実習生(女性)に頼んだのは、「お前の胸で温めてくれ!」体温が下がった場合、体温程度のぬるま湯で温める方法もありますが、これは直後の対処を誤ると危険な結果を招きます。何せ体温を上げる薬はないのです。浮かぶのは人肌で温めること、これ以外には浮かびません。
 これが第4章。動物病院に又珍客という訳です。でも、正直にいえば私は助からないと思いました。体温低下の時期が長かったせいか、飲むミルクの量は少なく、従って体重も増える兆しをほとんど見せませんでした。ただ、泣く力だけは思いの他強く、生きたい、生きようとする叫びは胸にせつなく響きました。自らの無力をやるせなく思うのはこういう時です。はっきり言って降参でした。
 4月下旬の段階で、それでも体重は生まれた時の倍の126g、肛門周囲の腫れ、それによる出血、腸粘膜のはく離等、地獄のえん魔様の顔を見ながらも見事に甦りました。ひたすら獣医の適切な対処、処置に脱帽するばかりです。

« 62号の5ページへ62号の7ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ