でっきぶらし(News Paper)

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102号(1994年11月)5ページ

明日に向かって(1994年・主な出産動物) やっと育児を覚えたシシ

 自らの指をチュッチュッと吸う赤ちゃんの姿、愛らしくはありますが、決して好ましい仕草ではありません。スキンシップの欠如を訴えている、と言ってよろしいでしょうか。 
 サルは母子の絆が非常に強い生き物です。生まれてからの何ヶ月(種によってその期間はまちまち)かは、母親にべったりくっついたままです。少しでも引き離されれば、途端にすさまじい悲鳴をあげます。
 そうしてじっくり母親の肌の暖かさを味わって育ったサルは、指を吸ったりしません。少々の思わぬ出来事にも動じなくなります。
 片や、私達が育てたサルはどうだったでしょう。しがみつけるタオルが代理母です。決して離そうとはせず、何かの拍子になくすと、どうしようもない心理的動揺を招きます。今、動物病院で貰い手を待っているシシオザルのユッコもそう。二才を過ぎてもまだ離そうとしません。当然、指吸いもやります。
 それは乳幼児の一過性の問題ではなく、彼らの一生に関わる問題です。シシオザルならシシオザルと自覚できるできないかだけでなく、仲間との付き合い方、交尾、育児、全てに問題が出てくるのです。
 だからこそ、シシオザルの三回続けての育児放棄(うち二回は人工哺育)は、私達に暗雲を投げかけていました。ただ三回目の時、妙な抱き方であれ抱くだけは抱いてくれていたので、ひょっとすれば次回はなんとか自分で育ててくれるのでは、との期待を与えてくれていました。
 そして四回目。昨年の四月、周囲にやっと肩の力が抜ける安堵感を与えてくれました。ミーティング時の「しっかり胸に抱きついております。」と、獣医の明るくのびやかな声、印象的でした。
 シシオザルは、今や絶滅の危機に瀕しています。それだけに問題を抱えたままの出産は、より苦悶が伴っていました。獣医の声が明るくのびやかになった訳です。

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