でっきぶらし(News Paper)

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110号(1996年03月)10ページ

あらかると 「さらばジュリー」

 オランウータンのジュリー(三歳一ヶ月)が、四月十九日に横浜市立野毛山動物園へ旅立ちました。くしくもそれは、彼の母親ベリーが当園へお嫁入りする前、二年間生まれ育った場所です。
そして、彼女の血を引く彼が、今度は母親の古里へお婿さんとして里帰りしたのでした。彼は一九九三年三月十二日の早朝に生まれ、その時の体重は一八八〇gでした。
 母親は人工哺育で育てられてしたので、出産時のアクシデントを心配しました。思ったよりは落ち着きを見せて最悪の事態はまぬがれたものの、案の定自ら育てようとはせず、取り上げて人工哺育にせざるを得ませんでした。
 私は、類人猿の人工哺育はチンパンジーで何回か体験していましたが、それはあくまで代番ででした。いざ自分の担当でとなると、責任の感じ方がまるで違い心配が先立ちました。
 前任者が資料を残してくれていて、それを参考に育てることができました。途中、下痢して体重の増加がストップしたりしましたが、資料と見比べてもほぼ同じのびを示していて、まあ順調に成長したと思います。
 しかし、離乳には大変苦労させられました。バナナをまず与えたのですが、なかなか食べてもらえず、小指の先程度のを食べさせるのに一時間近くもかかったり、スムースに食べてくれるようになるまでに半年近くもかかってしまいました。
 いざ食べ始めると、その後は順調に進みました。天気のよい日は子供動物園に展示してたいへん人気を集めましたが、四月の半ばには十六kgを越え、類人猿舎からの送り迎えがけっこうな重労働になっていました。しかしそれも、もう終わりです。
 親馬鹿と言われようと、素直ないい個体に育ってくれました。おとなしくて変なクセもついていないので、野毛山動物園ででも皆に可愛がられ、新しい仲間ともうまくやっていけると思います。幸福な一生を送れるよう、祈っています。
(池ヶ谷正志)

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