でっきぶらし(News Paper)

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116号(1997年03月)5ページ

動物園実習を行なって

 北里大学獣医畜産学部畜産学科4年 望月弥寿人
 僕が現在住んでいる青森県では、まだ厚い上着を手放せないような寒さが続いており、春分ももうすぐだというのに道路にはまだ雪が残っているなんて所もある。僕が大学に入る前まで住んでいた静岡県では考えられない事である。そして今回その静岡で動物園実習を行なわさせてもらえる事になった。場所も自宅から自転車で30分、幼い頃からの最も親しみのある日本平動物園で実習することになった。
 僕が今現在所属している畜産学科では、大学を卒業すると食品加工関係、製薬関係、牧場関係、そして動物園関係などが主な就職場所となる。僕も大学4年生ということで、自分のこれからの将来について考えなければならない時期に来てしまった。そこで先ほど挙げたようなさまざまな就職方面の中で、自分が最も興味をひかれる動物園とはどういうところなのか、また動物園内の動物とはどういうものなのか、動物を管理する飼育係の仕事とはどういうものなのか、以上のような僕の好奇心が今回動物園実習を行なわせて頂く一番の理由である。あともう一つ、せっかく11日間も実習させて頂けるのだから、どの動物でもいいから自分の顔を覚えてもらいたい。  
 そしていよいよ実習が始まった。これからお世話になる飼育課の皆さんを紹介して頂いた。まず驚いたのが、女性の方が少ないのと年配の方がとても多い事だった。またさらに驚いたのが、実際仕事をさせて頂いてみてその仕事の多さと大変さだった。僕は中学、高校、大学と運動部をしていて、体力にはかなり自信があるのだが、朝の7時30分から夕方の5時まで働いて、しかも助手的な作業しかしてないのに、家に帰るや否や風呂に入って飯を食べて7時には布団に入ってしまった。僕の担当でお世話してくださった方が、仕事の後に「テニスに行こうかな」と言ったのを聞いた時には駄目押しをされた。
 僕が担当になった動物は主にサル、猛獣(ライオン、トラ、ヒョウなど)、ゾウ、キリン、バイソン、鳥(タンチョウ、ノガンなど)、シカである。仕事の内容は舎内の清掃、餌作り、餌やり、行動観察の繰り返しであるが、これが動物によりそれぞれさまざまなケースがあっておもしろい。例えば、餌においてもきれいに全部残さずに食べるものもいれば、果物の皮だけを残すものもいる。また同じ部屋を汚すことにおいても、まんべんなく汚すものもいれば、壁にわざわざ体をこすりつけて汚すものもいる。ゾウにおいては、この個体により寝る向きが右向き左向きに決まっていたりする。そして舎内の清掃においては、ただきれいに清掃をすればいいというわけでなく、動物の事を常に考えて清掃しなければならない。例えば、舎内をブラシでこすって掃除するわけだが、水洗いだけで洗剤などは一切使わない。洗剤などを使ってしまうと、その動物の臭いが消えてしまい、動物が不安になってしまうからだ。実際自分もたまに旅行などでいつもと違った場所に泊まると寝つきが悪くなったりすることと同じ事なのだろう。
 またノガンの清掃においては、一人で清掃する分には良いが、二人で清掃してしまうと、狭い舎内のスペースでは鳥が逃げ場がなくなりパニックになってしまったりするし、ブラシで壁や床をこする作業も壁ごしに動物がいる場合は、ビックリさせないように静かに掃除しなければならない。などなど動物によりいろいろな特窒ェあり、それを管理する人はそれらをすべて把握して作業している。長い間の経験と毎日の注意深い観察から培ったもので、とても一朝一夕で出来るものではなく、ここの係の人がとても凄い人に思えた。
 そして一番自分が心に残ったのが、この日本平動物園の飼育係の、飼われている動物への接し方である。自分がこの動物園で実習する前、動物とその飼育係との接する時間、動物とのふれ合いの時間が多いと思っていた。(例えば、動物といっしょに遊んだり、直接餌をあげたり、隣に動物がいながら清掃したり、手でなでてあげたりなど。)
 たぶんそれは僕のような一般の人間みんなそう思っていると思う。しかしここでは間接飼育といって、ほとんど動物が人間にタッチしていなかった。でもそのかわり、舎内に入る時、舎内を掃除する時、動物に餌をやる時、舎内を出る時などは必ず動物に話しかける。これは動物に自分の存在を知らせる、認知させるとともに、安心させるという意味合いがある。常に動物と一定の距離をおいているのだ。つまり野生の動物というのは、普段ペットとして飼われている犬や猫と違い、人間に対して僕らが考えている以上に警戒心が強く、動物同士だけの仲間意識が強く、頭がいいのであって、それを理解した上で接しなければならないのだ。かといってもし、動物が人間になれて危害を与えなくなったとしても、それは野生にいる動物の姿ではなく、一般の人に野生でたくましく生きているライオン、ゾウ、キリンなどの姿を見せるための動物園としての本来の機能を失ってしまっていることになる。やはり、本来の野生の動物を一般の方に見てもらうためにも、一定の距離を置いて、接しすぎず、遠くなりすぎないようにするという事は、大変重要なんだという事をこの日本平動物園で学んだ。
 最初に言ったように、大学4年生ということで自分の将来について考えなければならない。自分がどのような職業を一生やっていったらいいか凄く迷っている。でもここに来てここに働いている皆さんを見て、自分の仕事に対するこだわりやプライドというものが、ひしひしと伝わってきた。今、就職難とか就職氷河期と呼ばれる時で、さらに労働者も消費化されてしまう世の中で自分の仕事を一生やってゆくには、自分がその道のプロフェッショナルにならなければいけないと思う。何かこう、他人にはできない、ゆずれないこだわりやプライドを持った人にならなければいけないと思う。そして何より自分がその仕事を好きになること。好きこそものの上手なれと言うが、まさにその通りである。この動物園で働いている人の姿がとても生き生きしているのを見て、自分もこれからどのような仕事につくかわからないけど、楽しくやれる仕事を探したいと思う。
 たった11日間という短い期間でしたが、どんな講演を聞くよりも、自分のこれからについて身を持って教えてもらった。ご迷惑をたくさんおかけしましたが、あたたかく迎えてくれて本当にありがとうございました。
 実習の教訓
 「正しい道は一つではない」

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