でっきぶらし(News Paper)

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87号(1992年05月)6ページ

一九九二年 春の話題を追って【カナダガンの学習】

 これよりちょっと前に、ホンシュウジカ以上にお客様の歓心を一心に集めた鳥がいました。カナダガンです。よりによって?日曜日の最も騒つく時にひなをかえしたのです。
 それでも、藪の中とかのお客様の目に届かない場所ならそうでもなかったでしょうが、彼らはわざわざお客様の最も目に届く池の柵のすぐそばで抱卵したのです。いやでも視野に入ります。
 私がカメラを構えている間中、お客様の歓声は絶えませんでした。本来ならわずらわしい筈のお客様、何故こんな場所で彼らはひなをかえしたのでしょう。昨年も同じ場所でかえしています。
 私のつぎはぎの情報を足してゆくと、どうも昨年、最初に生んだ卵がカラスに奪われてからのようです。カラスに奪われないようにするには、思い切って人のそばへ近づいた方がいい、と判断したようでした。つまり、カラスが人を恐れているのを逆用したのです。
 動物は飼育係を覚えていることによく驚かれるお客様がいますが、彼らはそんなに馬鹿ではありません。私達が想像する以上に周囲の状況をよく見極め、生き抜いてゆく為の知恵を発揮しています。
 カナダガンも長い間動物園で暮らしていれば、何が自分達にとって危険かは充分に承知しています。カラス、アオダイショウ、タヌキ、彼らからすればこの世から消えて欲しい生き物でしょう。
 それにしても、ひなをかえす為に人を利用するなんてもの凄い知恵。だてに動物園暮らしは長くなく、したたかさえ覚えます。脱帽です。
(松下憲行)

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