でっきぶらし(News Paper)

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43号(1985年02月)7ページ

良母愚母 第四回【ラクダ(愚母と言ってしまえばそれまでだが…)】

 昨年の五月、久しぶりのラクダの出産にわあわあ湧き返っていました。が、喜びも束の間、妙に弱々しかった子は、あっけなく他界。解剖すれば、頚椎が二ヶ所も外れていました。
 全く悪夢の再現です。こんなことになるのなら、産んでくれないほうがよかった、担当は少なからずそう思ったことでしょう。悲しい歴史のひとコマが増えただけなのですから。
 悪夢の再現とは何のこと、そう思われる方が多いでしょう。実は、ラクダの出産は、今回が初めてではありません。五年前に話は逆昇りますが、その時に初めての出産を迎え、もっと端的に同じ経験をしているのです。
 当時、すでに動物の成長をカメラで撮り続けていた私にとっても、それは待ちに待った瞬間でした。が、ラクダ出産の情報は広く知れ渡っていて、ラクダ舎の前はかなりの人でざわついていました。メスを落ち着かせなければならないのに…。これは今もって反省させられる点です。
 私自身、記録を撮ることに必死。記録係としての立場を乱用していたつもりはありませんが、多少の図々しさがあったことは否めません。これは今もって、時と場合によりますが、動物を落ち着かせるのが先か、記録の大事さを優先するかで、考えさせられることがあります。
 さて、出産シーンは無事に撮り終えたものの、悲劇はそれからしばらくしておこりました。獣医や担当者が見守っている中で、興奮して落ち着きを失っていたメスが、子の首を誤って…。
 子は立ち上がることはありませんでした。わずかに新鮮な空気を吸っただけで、ミルクすらひと口も味わうことなく、この世を去ってゆきました。
 二度目は、目撃はありません。でも、母親が誤ってにしろ唐ワない限り、起こり得ない事故です。しかし、馬鹿な母親と片付けてしまうのには、疑問を感じます。寝室が産室としては、やや狭過ぎる問題を抱えている現在、それを解消しない限り、ネネ(メスの名前)を批判する資格は、私たちにはありません。
(松下憲行)

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