でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 51号の8ページへ51号の10ページへ »

51号(1986年05月)9ページ

飼育係体験記 類人猿・サル舎編?U

県立城北高校 生物部 動物園班 少女B
十一時。飼育課へ戻り、調理場でえさ作りが始まる。サルたちの食事は、猛獣とはうってかわって、人間も食べられるものばかり。オレンジ、リンゴ、バナナ、パイン、トマト、パン、キャベツ、ニンジン、サツマイモ、卵と色とりどりで、思わずつまみぐいをしたくなるほどである。包丁が大きすぎて、うまく使いこなせないため、私はゆでタマゴとサツマイモの皮むきをやらせていただいた。あとは松下さんが適当な大きさに切る。オレンジのにおいがプーンと広まった。ゆでタマゴは、きみだけとり出して六等分する。しろみは捨ててしまうときいて、私は思わず”もったいない!!”と、つぶやいてしまった。これは消化が悪く、栄養も少ないからだそうだ。
全部切り終わると、カゴに入れてサル舎へ向かう。一時置いておき、松下さんは冷蔵庫からヨーグルトを二ケ出して、ジュンくんとベリーちゃんに食べさせる。レディファーストでベリーちゃんから。お客さんの声がきこえてきた。”ほら、おサルさん、マンマ食べてるよ。かわいいねー”チョコンと台の上にすわって、松下さんに食べさせてもらっているジュンとベリーは本当に人間の赤ちゃんそのものだった。
午後一時、サルのおりに餌を均等にばらまいておく。一ヶ所においておくと、けんかになるからだそうだ。餌をあげるのに特に重要なのはビタミンCとタンパク質なのだそうだ。サルは体の中でビタミンがつくれないため、果物を多くやるそうである。私は、サルというのは果物を食べるのがあたりまえと思っていたのだが、ちゃんと理由があるのだ。餌を配り終えると、戸を閉めてカギをかける。空になったカゴを水で洗い、ジュンとベリーのおりに水をまく。
次に、おもしろいハサミをもって木の枝を切りに行く。高い枝にとどくように、刃物に棒がついており、バネとひもによって切るようになっている。初めて見るものだったので珍しかった。木の葉は、ワラビーやアキシスジカが食べるのだそうだ。園内に餌が生えているとは経済的!!園内にある木では、ヤナギ、サクラ、カエデ、シイなど。絶対にあげてはいけないのが、ネズミモチ、ツツジ、キョウチクトウだそうである。ネズミモチという葉を食べると軟便になり、あとの二つは毒だそうだ。もしお客さんが知らずにあげてしまったら大変だ。こんなことからも”動物にえさを与えないで下さい”といわれる意味がわかる。動物たちが、自分の手から餌を食べてくれるのはとてもうれしいことだけど、そのためにお腹をこわしたりしたらたいへんだ。
その他に、ニセアカシア(マメ科)の葉も食べるそうだ。でも、タンパク質が多いためあまり多くあげると、ガスがたまり便秘になってしまうそうである。おやつ程度ならいいということで、松下さんの切ってくれたニセアカシアを、アキシスジカにあげた。はじめは警戒していたが、一番最初にオスのシカがきてくれ、あとからゆっくりゆっくり、メスジカや仔ジカがきて食べてくれた。白い斑点にセピア色の背中もきれいだけど、まるくて黒い目もきれいだ。
動物ってみんな目がいい!!
またサル舎の方へ戻った。いきなり“基礎体温って知ってるか?”ときかれ、一瞬とまどってしまった。保健かなにかで勉強したような気もしたけど、定かでないので“知りません”と答えた。“高校三年にもなって、こんな大切なことを知らないなんてダメだなあ”と言われてしまった。情けない・・・
類人猿の飼育をするのには、人間の女性の体のしくみなども、頭の中に入れておかなければならないそうである。私も、もっと本を読んで教養を身に付けないと!という気持ちになった。生物もがんばろうー!
ここで休けいをいただいたので、外に出て園内を歩いた。今日もいい天気。
おとといまで家でゴロゴロしていた自分が、今こうして動物園にいるなんて、なんだか不思議な気がした。昨日も充実した一日だったし、今日もいろんなことを教えていただいたし、今年の夏はこれだけで充分だ!などと、いろいろ思いながら一人でほくほくしていた。
何分か休んで、遅くなってはいけないと思い早めにサル舎へもどった。松下さんは机にむかって、ジュンとベリーの飼育日誌を書いていた。朝と夕方の体温が記録されており、その日の健康状態や行動の様子などが詳しくかかれている。大変なことだ。
部活でハムスターを飼い始めた頃、私も飼育日誌というものを書いて体重などを毎日記録したけど、最初はまじめだったのがしだいにめんどくさくなり、ノートには”今日も元気”のことばがつづいたりした。それを思うと、ぎっしりかかれたノートを見て、さすが飼育係さんだ!と思ってしまった。愛情をもって世話をしながら、常に動物たちの行動に気を配っていなければならない。普通の人では、とてもできないことだ。
ジュン・ベリーの外のおりの掃除がおわると二頭ともおりから出して、夕方の体温をはかる。ベリーちゃんが松下さんのひざの上ではかってもらっている時、ジュンくんはイスの下でまっている。寝ころんだり、そばの手すりに手をのばしたりしてフラフラしていたので“こらっ、ジュン!!”とおこられた。しばらくは言うことをきいて、おとなしくしているがまた動きだしては“ジュン!!”そのたびに私はドキッとして自分が叱られているような錯覚におちいって小さくなっていた。
ジュンの番になり、私はベリーちゃんを抱かせてもらえることになった。突然のことに、私に抱かれてくれるかとても心配だったけれども、あの茶色い手を私の首にまわしてきたので、よいしょっと抱きあげた。うれしい!でも内心少し怖かった。いきなり顔をビタンッとぶたれるのではないか!などと、とんでもないことを考えていた。
しかし、初めて触ったオランウータンの体のその感触と、重みはなんとも言えず、ただ感激するばかりだった。かわいいなあ・・・そう思っているうちにベリーちゃんは、近くの手すりに手を伸ばし、私はぐいっと引き寄せられた。なかなか力がある。私の帽子をとって口に持っていったり、カベにかけてあったジャンバーをとったりして、どうしようかと困ってしまった。“ダメだよ”といっても、きいてくれるはずがなかった。松下さんに“それは遊ばれているんだよ!!”と言われてしまった。
ベリーちゃんは私の手から離れて、下におりてしまった。もう一度抱こうと思い“おいで”というと、手を伸ばしてきたのに、ものすごく重くて持ちあがらない。あれっ?と思っていると“それは抱かれる気がないからだ”そうだ。ベリーちゃんにバカにされてしまった私は、すっかり自信をなくしてしまった。やさしいだけではいけない。やさしくすれば遊ばれるだけなのだそうだ。そういうものなのか・・・動物の子供を育てるのも難しいものだ。
午後四時。サルたちを中に入れ、外のおりのそうじをした。これは私もやらせていただいた。松下さんが水で集めた餌の残りや糞をチリトリにとる仕事だ。排水口にたまったそれはホウキではちょっととりにくいため手でとる。その時には、ムカデやゴキブリでも出てきやしないかと、冷や冷やしていた。やっぱり虫はだめだ!あとは所々汚れているところをデッキブラシでこすり、水で流す。部屋数も多くて、割りと時間がかかり、疲れた。でもいい気分だ。
そこの掃除が終わると、松下さんに“もう帰っていいから、二十分ぐらいこの子のお守りをしていて”と、またベリーちゃんを渡された。テツの外のおりの中で(テツは、もう中に入っている)ベリーちゃんをずっと抱っこしていた。さっきのことで自信をなくした反面、また抱けたことのうれしさもあり、複雑な気持ちだった。
松下さんが掃除を終わり、おりから出ていってしまうと、ベリーちゃんは私と二人きりになってしまった。おじさんがいなくなってしまったと知ったベリーちゃんは私から離れ、カギのかかった戸にしがみつき“キューキュー”と、かなしそうにないた。なんだか自分がひどい悪人になった気がして“大丈夫、もうすぐくるからね。ちょっとの間まってようね!!”などと一所懸命なぐさめた。いきなり知らない人といっしょに閉じこめられてしまったベリーちゃん!でも、なんとかして仲良くなりたい、もう一度抱きたいがどうすればいいんだっと思っていると、スッと茶色い手が!!その瞬間のうれしかったこと―。ありがとう、ベリーちゃん!!小さい子供(人間)が苦手の私ではあったけど、しっかりと私に抱きついて、まあるいちいさい目でじっと見つめるベリーちゃんをたまらなく愛おしく感じた。
短いようで長かった20分。こんなに長い間、ベリーちゃんに触れることができたなんてうそみたい。松下さん、どうもありがとう。
午後五時。ミルクの時間。そして、おやすみ、ジュンくんとベリーちゃん・・・。これで一日の仕事が終わった。服からは、ベリーちゃんのにおいがほのかにした。

二日間の体験を終えて、川畠さんや松下さんの話の中で、飼育係さんたちは、いつでも一番に動物たちの心を考えて仕事していることがよくわかったし、たった二日間だったけれど、それだけにこの飼育体験は貴重でした。以前はあまり気にもしなかったお客さんの身勝手な行為に無性に腹が立ったりして、飼育係さん側の気持ちが少しでもわかってよかったと思います。又、自分の軽率さ、いいかげんさも身にしみてわかり、反省させられました。これからは、今までとは全くちがった面から動物園を見ることができます。
動物園は入場料が安いし(ひらきなおって20円で入ってしまおうと考えているが無理かな?)これから機会があれば他の動物園も見てきたいと思います。動物園の動物たちは、お客さんから見れば普通のおりの中の動物でしかないけれど、飼育係さんから見れば自分の子供同然。だから、動物達と飼育係さんの接触を見るだけでも、心が和む感じがしました。
動物園の目的・役割(・レクレーションの場・教育の場・研究の場・自然保護の場)というものを知らなかった私は以前まで、野生の動物たちの自由を奪うということで、なんとなくすっきりしないものがありましたが(でも、たのしんできていた)飼育係さんの動物たちに対する愛情や苦労なども知った今では、ここの動物たちは動物園でしか味わえない幸せを感じてるんだなと思い安心しました。
他にも、いろいろあったと思うのですが、うまく書けません。とにかく、この二日間はとても勉強になりました。
最後に、大変お世話になった川畠さん、松下さん飼育係のみなさん、本当にありがとうございました。(おわり)

« 51号の8ページへ51号の10ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ