でっきぶらし(News Paper)

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259号(2021年05月)7ページ

眠たくなるお話 その②

 それでは、実際の麻酔を皆さんと一緒にシミュレーションしてみましょう。場所は猛獣館、アムールトラの寝室、オスのフジに検査のために麻酔をかけることとします。寝室には3方向に格子があり、その隙間から麻酔薬を仕込んだ吹き矢を使って筋肉の厚いお尻の辺りを目がけて注射します。いつもと違う雰囲気でガオガオ〜と威嚇するフジ。格子越しでも怖いですよ。あまり興奮させないようすぐにあてるのがベストです。吹き矢がささったら麻酔係を除いて退散。興奮状態では麻酔が効きにくいので麻酔がかかるまでは部屋を暗くして静かにし、動物の様子を小窓からチラチラ覗いて観察します。寝るまいとして踏ん張っている姿は健気ですが、麻酔が効くまでに時間がかかると追加麻酔をしないといけないので気が気ではありません。動物に負担をかけないために出来るだけ必要最少量かつ短時間で麻酔処置を済ませたいので、早く効いてくれないかな〜と思いながら見ています。途中で様子がおかしくなったり、呼吸が止まったりしないかよくよく観察して、何かあれば突入できるように、麻酔の拮抗薬(麻酔薬の効果を打ち消す薬)や盾も用意してあります。

 さて、12分位して麻酔が効いたようです。横たわって動かず、呼吸数も少なくなってきました。でも、油断は禁物。意識がなくなったことを外から見て、棒で身体をつついて動かないことを確認しますが、倒れた位置によっては直接部屋の中に入ってツンツンしないといけません。中に入って作業のゴーを出すのは私の役目です。とっさに起きることもあるので、逃げ道を確保しつつ、そろりそろり…。

 よし、不動化オッケー!ゴーサインが出たら、作業開始です。今回は紙面の都合上、ここまで。どうでしたか、少しは緊張感が伝わったでしょうか。動物が麻酔から覚めて立ち上がるまでは、本当に気が抜けません。動物園の裏側でこんなことも行われているのだと想像しながらお布団に入ったら、今晩は楽しく眠れるかも? 

(松下 愛)

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