でっきぶらし(News Paper)

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261号(2021年08月)3ページ

「コンゴウさん」

 猛獣館を通り抜け、売店を過ぎ、左へ折れると、ふれあい動物園が見えてくる。ふれあい動物園に足を踏み入れた途端、「ギャア!ギャア!」と大きな叫び声に、大抵の人はビックリする。その声の主はインコ舎の中でもひと際大きく赤いオス鳥。彼の名はコンゴウさん。コンゴウインコ、だからコンゴウさんだ。何のひねりもなく付けられた名前だが、飼育員は愛情込めて、今日もその名を呼ぶ。

 彼の一日は忙しい。目の前に現れるお客さんに、いかに自分が強そうに見えるか、見せつけなくてはならない。胸を張り、やや翼を広げ、「オレ、強いだろ?」と自慢げな顔をする。触ろうものなら、確実に噛まれるであろうその嘴を、時折柵の間に挟み込み、「ガンッ!ガンッ!」と音を立て鳴らす。そしてとどめの一発「ギャー!」という雄叫びをあげるのが、彼のルーティンだ。そんな彼だが、静かになる時もある。それは、ごはんの時間だ。彼の大好物はヒマワリの種だ。しかし、「太ってしまうと健康に良くないから」という理由で、数粒しか与えてもらえない。その数粒を彼は大切に、おいしそうに食べる。バナナやパンも好きだが、ヒマワリの種が一番だ。しかし、それらの好きなものを食べ終えると「これだけかよッ!」と不満を顕わにし、飼育員へ当てつけるようにエサ皿をひっくり返し、残りのエサをバラまいてしまう。「あーあ、またやっちゃってるよ泣」の気分で、飼育員はエサ皿を戻すが、彼の不満は解消されたわけではないので、またまたひっくり返されてしまう。コンゴウさんのエサ皿が、いつも転がっているのは、そんな理由からだ。ごはんを食べているか、強いぞアピールをしながら外を眺めているのが彼の日課だが、お客さんはよく彼に「おはよう!おはよう!」と話しかけてくる。しかし、残念ながら、彼は人間の言葉をしゃべることが出来ない。多分、覚えるつもりもないのだろう。彼が出来るのは、大きな声で「ギャア!」と叫ぶことだ。だから、「おはよう!」と期待を込めた声で話しかけると、彼は少し困ってしまう。どうしていいかわからず、首をかしげる。結局、となりの部屋の別のインコが「おはよう」と助け船を出してくれることで、彼は、おしゃべり”プレッシャーから解放されるのだ。しかし、続々と次のお客さんがやってきては「おはよう」と話しかけられ、彼はまた困ってしまう。コンゴウさん、あなたはおはようが言えなくても、立派な雄叫びを持っているではないか。「おはよう!」と話しかけられたら、自信をもって「ギャア!」と叫んでみよう。と、飼育員は思うのであった。

(大石 里香)

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