でっきぶらし(News Paper)

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260号(2021年06月)5ページ

オランウータンのトレーニング

 動物園で取り組んでいるハズバンダリートレーニングについては、これまでの“でっきぶらし”や“ZOOしずおか”で何度か紹介されていますが、オランウータンたちも健康管理のためのハズバンダリートレーニングを行っています。

 2018年に来園したメスの「ミンピー」はとても賢く好奇心旺盛で、トレーニングを始める前から檻越しに手足やお腹を触らせてくれるなど、簡単な動作はできていました。ここからさらに実際の診察や治療などを想定した動作を覚えてもらうため、2年ほど前からホイッスルやターゲットを使ったハズバンダリートレーニングを始めました。まずはホイッスルが鳴るとご褒美(おやつ)が貰える、という関係性を覚えてもらい、次にターゲットに触れる→ホイッスルが鳴る→ご褒美、という流れで行ったのですが、ミンピーはここまでを1日で覚えてしまいました(さすが食いしん坊のミンピー!)。その後も少しずつトレーニングを進めて、口を開ける、背中を見せる、腕に注射針をあてる、などの動作もできるようになりました。持ち前の好奇心(と食欲)のおかげで、新しく見る器具も怖がらず受け入れてくれて、歯ブラシを口の中に入れたり、聴診器を胸やお腹にあてることもそんなに苦労しませんでした。

 もちろんいつも上手くいくわけではなく、トレーニングの途中でやりたくなくなってしまったり、最初から参加してこないときもあります。ハズバンダリートレーニングは動物が自ら行動してくれることが大事なので、そんなときは無理強いしません。ですがミンピーは多くの場合、トレーニングを楽しんでくれているようなので助かります。また、ご褒美はナッツやドライフルーツなど大好きなおやつなのですが、それよりも「褒められる」ということにテンションが上がっているような気がします。「わ〜!すごいね!」「えらいねミンピー、さすがだね」「賢いね〜、お利口さんだね〜」と(ややオーバー気味に)褒めると、「でしょ?もっとできるよ!見て見て!」と言わんばかりに次々トレーニングをこなしてくれるのです。本当に賢くて毎回驚かされます。今後もコツコツ続けて、できることを増やしていきたいです。

 さて、オスの「ジュン」の方は、当園で生まれて38年間とくにトレーニングはしてきませんでしたが、幼いころに母親を亡くして以来人工保育で育ったこともあり、飼育員とのコミュニケーションはバッチリです。爪を切るため手足を出してと言えば出してくれるし、体を触っても怒ったりしません。人間の言葉をある程度理解しているのではないかと思うほどです。しかしそれとトレーニングとは全く別問題でした。まず、初めて見るものは大抵嫌がります。ターゲットの棒も歯ブラシも聴診器も、近づけるだけですごく嫌そうな顔をします。ホイッスルとご褒美の関係性もなかなか理解できないようで、「そんなのいいからおやつちょうだい~」という感じです。「今まで何もしなくてもおやつ貰えたのにな〜」なんて思っているかもしれません。なのでジュンに対しては焦らずゆっくり、彼が嫌がらない方法を探しながらやっていきたいと思います。※ちなみにこの記事を書いている今日、初めてジュンのおでこで体温を測ることができました!とても嬉しくて、「すごいね!偉いね!」とたくさん褒めると、ジュンもまんざらではない様子でした。

(川合 真梨子)

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