でっきぶらし(News Paper)

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254号(2020年06月)7ページ

病院だより 仁義なき陸上戦(その1)

 2020年3月23日(月)休園日、もう年度が変わろうかというその日、動物病院は緊張感に包まれていた。そう、獣医師たちはかつてない脅威に立ち向かおうとしていたのだ・・・というわけで、今回は私たち獣医師がいつも治療に困る動物、ゴマフアザラシのお話です。私は以前にもアザラシの治療について書いたことがありますが、
 ・水中で生活するので薬が使いにくい
 ・イヤなことするとけっこう獰猛
 ・抑え込むと驚きのパワープレイを見せる
などなど、まあ治療のしにくさといったらないです。今回はそんなアザラシたちの採血やできものの処置、そして定番の爪切りに挑んだお話。思わぬアクシデントもあるよ!(いらない)
 治療の当日、獣医たちは処置に必要な器具のチェックや、万が一の時のための準備に追われていました。水中戦では勝ち目がないし危ないので、アザラシプールの水をすべて抜いて、陸上戦を展開する予定です。すべての水を抜くのに約2時間ほど時間がかかるので、その間に他の動物たちの見回りや薬の処方をしたり。プールの水を抜き終えた後は、5mほどの長いハシゴをテラス(アザラシのお食事イベントをするところ)からプールの底(円筒水槽の下まで)へと下ろし、倒れないようロープで固定しておきます。みんなヘルメットをかぶって準備を進める光景は、さながらレスキュー現場のようです。さて、すべての準備が整いました。これから治療に入りますが、まずは本日のミッションを紹介しましょう。当園には3頭のアザラシたちが生活していますが、今日は全頭処置する予定です。
 ①ソウヤくん:爪切り
 ②シズちゃん:爪切り、左ヒレのできものの処置
 ③ソラくん:爪切り、採血
盛りだくさんですね。お昼ごはんはいつになることやら。
 まずは今回絶対に採血しておきたいソラから処置していきます。ソラはここ最近少しやせてきたので、採血で病気がないか確認をしたいのです。採血するために、まず飼育員さんがプールの奥からアザラシを獣医の方へ誘導します。それから盾で通せんぼをして、抑え込み役の人が上に乗るという手順になるのですが、誘導してもなかなか来ない。奥からはゴ〇ちゃんのキューキューという可愛い声とは似ても似つかない、「ゴワアアアァァー!」といううなり声が聞こえます。こわい。やっとソラを誘導、保定して採血です。アザラシは血管が皮膚に浮いてこないので、目安をつけて針を刺すのですが一発で成功!素早く爪切りも行い、なるべく押さえる時間を短くして解放してあげます。
 次がシズですね。シズは左ヒレのできものを今回で取ってしまうという重要な処置があります。ソラと同じように誘導、保定から、できものの処置に取り掛かりました。取るといってもヒレを動かす状態で手術はできないので、できものの根っこをぎゅっと縛ります。根っこを縛ると、できものに血液が運ばれなくなり、もちろん血液が運ぶはずの酸素や栄養ができものに届かなくなるので、時間がたつとできものがポロッと落ちてくるのです。ヒレが動く中縛るのはなかなか大変でしたが、なんとかやり遂げ、爪を切り解放します。おつかれさま。後日、シズのできものは無事なくなっていました。

(次ページへつづく)

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