でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 251号の1ページへ251号の3ページへ »

251号(2019年12月)2ページ

リンカーンとアラシのトレーニング記録

当園ではトレーニングで、アザラシの爪を切ったり、ホッキョクグマの採血をしたりしていますが、このような結果が出るまでには、試行錯誤の時間も含めて、1年以上の時間がかかっています。私がジャガーとピューマのトレーニングに携わったのは、たった1年で、しかも採血などの結果にはつながらなかったので、記事にするつもりは無かったのですが、つい最近、16歳と17歳の高齢大型ネコ科動物でもたった1年でここまで学習できるということを伝えたい出来事があったので、記録として筆を執らせていただきました。

 対象は、当時17歳のピューマ『リンカーン』♂と16歳のジャガー『アラシ』♂。どちらも人間でいうとおじいちゃんにあたる年齢で、今は亡くなっています。私はトレーニングの経験が皆無だったので、採血を目指していたホッキョクグマのトレーニングに関わる前の練習として1年間、2頭を相手に練習を行いました。

 まずはごほうびの合図とごほうびのエサを結び付けて覚えてもらいます。こちらは、2頭とも2週間ほどでクリアできました。次に、木の枝の先に括り付けたボールを『ターゲット』とし、ターゲットに鼻先でタッチしたらごほうび、ということを教えました。ジャガーのアラシは何事も慎重に動くタイプで、そっと鼻先をボールに近づけてくれたので、スムーズに『鼻タッチでごほうび』を2週間ほどで覚えましたが、4日間トレーニングしなかったら、すべてを忘れ(さすがネコ…)、その後1週間かけてすべてを思い出すという過程を経て、大体1か月ほどでマスターしました。

一方、ピューマのリンカーンは鼻タッチまで半年もかかりました。ターゲットを見た途端「なにそのボール!ちょうだい、ちょうだい!」と飛びつき、かみつこうとするのです。それではごほうびはあげられません。

そんなリンカーンを横目に、ジャガーのアラシはターゲットに鼻先を付けるトレーニングを通して『どうやら、ヒトの望む行動を当てるゲームらしいぞ?』と気づいたようです。そのため、どんどん新しい合図を覚え、こちらが指示をすれば、どこででも伏せをし、頭以外は体中どこを棒でなぞっても(手で触るのは怖かったので、棒を檻の中に入れて、皮膚の状態を確認していました)、嫌そうな顔はしますが、じっとしていられるようになりました。さて、なぜアラシがゲームのルールに気づいたと感じたかというと、未熟な私が、時々タイミングを間違えて、前は合図を出さなかった行動に、合図を出した時に(混乱させるのでやってはいけないといわれている間違いです)アラシは混乱するどころか、「さっきはダメだって言ってたのにーっ」と言わんばかりの勢いで、高速ネコパンチを一発繰り出し、鼻で「フンッ」と息をして、間違いをごまかすために私が差し出したごほうびのお肉を受け取ろうともしなかったことが3回ほどあったからです。こちらが間違えたときの、ツッコミの速さも秀逸なら、たいていの動物は、エサを見たら、前後のことはコロッと忘れるのに、「それは違う!」という目でこちらをみてくるアラシは、すっかりトレーニングの先生でした。ちなみに、棒で体をなぞった目的は、最終的には棒を使って尻尾を檻の外に出し、そのまま採血、との考えだったのですが、残念ながら、ジャガーの尻尾は太すぎて、檻から出せなかったので、採血のためのトレーニングはここで打ち止めとなってしまいました。
 

« 251号の1ページへ251号の3ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ