でっきぶらし(News Paper)

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244号(2018年10月)2ページ

こんなに広いのに・・・

 フライングメガドームに子育ての季節が来ました。野生下では、ペンギンなどの巣穴をちゃっかりいただいて、子育てをするインカアジサシには、U字溝を逆さにしたものを、巣穴に見立てて用意しています。3月頃から、これは俺のだ!と言わんばかりにU字溝の上に乗って威嚇鳴きをしてきますが、卵を産むのは4月に入ってからです。オシドリやカルガモ、ツクシガモのためには、雨の入らない、特製の木の巣箱を作って、陸地のあちこちに置いています。ときには、同じ巣箱の中に違うカモの卵がごっちゃに入っていることも…。私たちの知らない間に巣箱をめぐる陣取り合戦を繰り広げていた様子がうかがえます。
 さて、フライングメガドームで最も分かりやすい巣を作るのはホオジロカンムリヅルです。ホオジロカンムリヅルは体が大きく、頭に特徴的な冠羽があるので、すぐに目につきます。そして、巣を作るのは茂みの中ではなく、植物の葦(あし)を栽培して人工的に作られた浮島という名の、池にぽっかり浮いた島です。このように、ただでさえ目立つ条件がそろっているのに、さらに、自分で巣の周辺の葦を引き抜いて巣材と視界を確保しているため、いっそう丸見えになっています。ちなみに巣は、葦で作られた台で中心が少しくぼんでいるだけなので、巣が見えたら、卵や抱卵している親の姿も丸見えです。
 先ほども紹介したように、ホオジロカンムリヅルは身体が大きいので、産む卵も大きく、150gほどあります。ちなみに、私たちがいつも食卓で食べている卵は、だいたい60gくらいです。フライングメガドームは広いのですが、卵が大きいので、遠目でもすぐにわかります。そのため、訪れたお客さまは「ヒナが生まれるのかな?」とワクワクして聞いて下さいます。しかし、残念ながら、卵の外見は本物ですが、中身はニセモノと取り換えてあります。ですので、ヒナはかえりません。といいますのも、フライングメガドームは、国内最大級の水鳥のドームにも関わらず、それでもホオジロカンムリヅル1ペアのなわばり分ほどしか広さが無いのです。前回ふ化したヒナは、巣立ち後に親鳥に追いかけられてしまいました。かわいそうだったので、フライングメガドームでの生活はあきらめるしかなく、残念ながら他の動物園へと旅立だせることにしました。
 また、ツルのなかまは、卵が消えると、卵を『生み足し』ます。ヒナがかえらないように、卵をただ取り上げてしまうと、お母さんは150gもある大きな卵を何度も何度も生んでしまいます。体に負担をかけてしまうと、弱ってしまうかもしれません。ですので、そうならないように、偽の卵を抱かせて、「ああ、この卵は孵らないのね…」と親鳥たちが納得してあきらめてくれるまで、抱いてもらうのです。
 国内最大級のフライングメガドームでも、そのキャパシティは、ホオジロカンムリヅルだと、たったの2羽。改めて、生き物たちが生きていくには広大な自然のあふれる土地が必要なのだと、痛感させられます。ぜひ一度、「この広さで2羽しか生活できないなんて」ということを体感しに、フライングメガドームに来てみてください。ちょっと驚かれると思いますよ。
(中村 あゆみ)

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