でっきぶらし(News Paper)

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232号(2016年10月)7ページ

【病院だより】 十年越しの夢!シギのヒナ誕生!!

 熱帯鳥類館に二種類のシギを飼育しているシギ舎があります。一時期は今より多くの鳥を飼育していましたが、現在はソリハシセイタカシギの一ペアとクロエリセイタカシギを一羽飼育しています。このシギ類ですが当園では繁殖が上手くいっておらず、二十年程前にソリハシセイタカシギが一羽ふ化しましたが、育つ途中で足を悪くして死亡してしまいました。この時は親が卵を産んだものの、抱かなかったので、人工的に卵を温める「フラン器」という機械にいれてふ化させました。このような方法を人工ふ化と言います。
 今回はそのソリハシセイタカシギが主役です。現在のペアは十年程前から飼育していますが、四年前に四卵、二年前に二卵産卵したもののヒナはふ化しませんでした。昨年は産卵することもなかったのですが、今年は大きな変化がありました。
まず六月に卵を一つ産みましたが、親が抱かないのでフラン器に入れることにしました。最初の卵をフラン器でふ化させようと試みている間に、できれば親が卵を抱いて、ヒナをふ化させて欲しいので、シギ舎の環境を整えることにしました。ソリハシセイタカシギのペアが落ち着くようにシギ舎の中につい立を置いたり、お客さんには申し訳ないのですが、観客通路側のガラスを半分以上覆ったりしました。
 七月に入るとフラン器に入れた卵がふ化し、動物病院で育てることになりました。シギの仲間はふ化してすぐに本能的に動いて食べられそうなものをつつき始めることが多いので、生きたイトミミズを買ってきて、与えてみましたが、よく見ると、ヒナの舌がどうもおかしいようです。途中で横に曲がりくちばしの中におさまりません。そのせいか上手く自分で餌をつついて、飲み込むことが出来ません。人間の手で餌を口の中に入れて、飲ませていましたが、体重は減少を続け、ふ化後一週間で残念ながら死亡してしまいました。その間に再びソリハシセイタカシギが卵を複数産んでいましたが、その卵も抱いてくれないのでフラン器に入れていたところ、その内の一卵が八月の初めにふ化しました。生きたイトミミズとオキアミを置いておくと自分で食べ始めました。体重の増加も順調で、凍らせたイトミミズも食べるようになりました。オキアミなども一緒に与えていますが、イトミミズが一番好きなようです。丁度お盆が明けるころ、イトミミズがなくなってしまったので、お店に買いに行くと、しばらく入荷がないとのことでした。別の店に行ってもありませんでした。ないものはないけど、餌は与えなければならないので、乾燥イトミミズや乾燥赤虫などを買ってきました。「どうか、食べて」と祈りながら、エサ入れに入れ、しばらくしてから様子を見に行くと食べてくれていました。この時がこのヒナの飼育の経過で一番のピンチでした。その後の成育は順調で、徐々に親鳥が食べる餌も食べ始め、ふ化したばかりの頃は短かった嘴もだんだん長くなり、親鳥と同じように反り返ってきて、親鳥のミニサイズという風貌になってきました。
一方、展示している親鳥の方ですが、卵を産み続けるのですが、抱かないという行動が続いていました。通常シギの仲間は卵を四、五個産みためてから卵を抱き始めますが、当園のペアは卵を抱く行動が見られません。そのまま放っておいたり、別の場所に卵を産んだりしてしまっています。そこで何とか親に落ち着いて、卵を抱いて欲しいので、展示場のガラスを完全に覆うことにしました。
 この原稿を書いている時点で、親鳥は何とか卵を抱き始めました。今年は二〇個近くの卵を産んでおり、何がここまでの変化をもたらしたのか不思議に思っています。ただあまり多くの卵を産むことも母親の体に負担となりますので、今年の産卵は打ち止めとして、今抱いている、卵をふ化させて欲しいと思っています。

(動物病院係  金澤 裕司)

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