でっきぶらし(News Paper)

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230号(2016年06月)6ページ

スポットガイドだより① 『3月20日 ブチハイエナ』

 3月20日(日)・13:30より、ブチハイエナのスポットガイドを行いました。今回のガイド担当は、女性飼育員。ブチハイエナが収容されている放飼場と観客の方々の中間の位置に立って、解説・説明をしました。…実は、このブチハイエナ、世間一般に拡がっている悪いイメージとは正反対の動物で、極めて高度な身体能力と知能を持った非常に優れたハンターであり、しかも、群れの中にいる弱った仲間の面倒を、とても良くみている様子が目撃されている生き物です。ちなみに、あくまで傾向的にですが…群れをつくる多くの肉食獣は、まず、弱った仲間の面倒はみません。何故ならば、色々な要因で弱った個体達は、狩りに参加できず繁殖にも直接関係無く、辛辣な言い方になってしまうかも知れませんが全体の足手まといに近く、事実上、群れの構成員として頭数にも入らないからです。
 しかし、彼らブチハイエナは、かいがいしく?弱った仲間達の世話をし、身体を舐めて清潔にしてあげたり、外敵から保護し、餌を分け与えたりする行動が観察されています。どうして他の種類の、群れを形成する習性をもった肉食獣が、ほぼ行わないこうした福祉的?行為を彼らがするのかはよく判っていませんが、ただ『ああ…この連中なら不思議はないなぁ…』と思わせる事があります。私も、何年かブチハイエナに関わった経験があるので感覚的に言えるのですが…あくまで人間的な表現に限定するとして御話すれば、一般の方々・またはブチハイエナに関わった事が無い人にはちょっと想像できないくらい、彼らは【温厚】だと思います。語弊があるかも知れませんが【優しい】と言っても良い、何か他の肉食獣には無い内面的な細やかさを感じる瞬間が経験的に何度もありました。奇妙な表現だと思いますが、時々、『なんか…おまえ…もしかしたら気を使ってる?』と感じられた程に…。
 ブチハイエナ。彼らは確かに死肉や腐肉【も】食べますが、エサの殆どを狩りで得ています。だいたい、大抵の肉食獣はみんな死肉や腐肉を食べるし、一例をあげれば彼らと対極の存在として描かれる事が多いライオンは、肉食獣の中でも際立って死肉・腐肉を食べています。その理由は、【哺乳類系の肉食獣・捕食者】という存在全体で考えた時、ライオンという動物が唖然とするくらい狩りが下手だから……これは仕方が無い事で、ライオンは数十m全力疾走すると心肺機能がもたなくなって動けなくなってしまうからです。(体重比で考えると心臓が小さい。だから、フル活動するとすぐに動けなくなってしまう。従って狩りの成功率が低い)。これに対してハイエナは平均時速40キロを維持したまま2時間は走り続ける事が可能(体重比で考えた場合に限るが、ライオンの倍以上の心臓を持ち、高い心肺機能を発揮できる。つまり、狩りの成功率が高い)です。
 物語の中で、悪い奴!と決めつけられている彼らですが、考えてみて下さい、冷静に考えれば【悪い動物】などは本来、存在しません。動物に善悪などありませんから。【悪い動物】は、人間が創作した物語の中にしかいません。もっとも【人間にとって都合が悪い動物】と位置付けされてしまっているものは、カテゴリとしてあるとは思いますが。…要するに、人間から見てどう見えるかが【良い動物・悪い動物】の判断基準でしかないのです。しかも困った事に、その【悪い動物】の判断基準は小説・漫画・アニメ・映画等のフィクションのキャラクター(つまり、作り物のキャラクター)なのに、あたかもその姿が現実であるかの様に錯覚している人々が多過ぎます。
 どうか、色々な偏見を抜きにして、彼らブチハイエナを見てあげてください。彼らはちゃんと見れば、黒目がちのとても可愛い顔をしているし、その仕草も、好奇心が強く非常に陽気です。観客の方々の中で、固定のファンも沢山います。
 何に対しても言える事ですが、偏見はものの見方を曇らせたり狂わせてしまいます。ご用心!ですね。

(飼育係  長谷川 裕)

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