でっきぶらし(News Paper)

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227号(2015年12月)2ページ

猛獣館へ行く前に・・・

 猛獣館299がオープンしてからはや6年、豪快に泳ぐホッキョクグマやガラス越しに目の前で観察できるライオン、頭の上で寝ているジャガーなど、今までとは一味違った動物園の楽しみ方を、たくさんのお客様が体験されたのではないでしょうか。そんな大人気施設のすぐ隣にひっそりとたたずむ、古びた獣舎で暮らしているのが、ブチハイエナのツキ(♂)とセレン(♂)です。あれ?ハイエナって猛獣じゃないの??するどい牙でライオンをいじめる奴でしょ?なんて思われた方もいるかもしれません。たしかにハイエナは一般的に猛獣といわれる動物です。日本平動物園での住まいが猛獣館の中でないのにはいろいろ事情がありまして・・・しかし、「ハイエナはライオンをいじめる悪い奴!」「ライオンの獲物を横取りするずる賢い奴!」というのはちょっと誤解があるようです。ハイエナにはブチハイエナ、カッショクハイエナ、シマハイエナ、アードウルフの4種がいますが、当園で飼育しているブチハイエナは野生では優秀なハンターで、鋭い嗅覚、聴覚、視覚を使った狩りはなかなかの成功率を誇るそうです。またあのちょっと独特な、腰の落ちたような体型は、長距離を走るのに適していて、2時間以上も獲物を追いかけることができるといわれています。しかし同じ生息地に住むライオンには体格差で負けてしまい、せっかく獲った獲物をライオンに奪われることもあるそうです。ハイエナが獲物を横取りするというイメージを持たれがちですが、実は逆なのかもしれません。
 冒頭で述べた通り、当園のブチハイエナたちは猛獣館のすぐ手前に住まいを構えているのですが、わくわくしながら猛獣館を目指す来園者の方々には、ごろごろと寝転がり地面と同化したブチハイエナはなかなか気づいてもらえません。テンション高く走り回っているときでも、「あ、ハイエナだー、こわーい」と横目で見られておしまい。なんて不憫な子たちでしょう。飼育担当者からすると、こんなにかわいくて愛嬌のある動物はそうそういないと思うのですが・・・。個人的な感情はさておき、名前はよく知られているハイエナですが、実は日本の動物園で飼育しているところは意外に少なく、どこでも見られる動物ではないのです。ブチハイエナを見るためにわざわざ遠くから来園される方もいるほどです。静岡にお住まいのみなさまはラッキーですよ、こんなに身近で見られるのですから!しかも驚くなかれ、日本の動物園で初めてブチハイエナの繁殖に成功したのは、日本平動物園なのです。そのとき生まれた子が、ツキです。その後ツキのお父さんとお母さんは別の動物園に引っ越してしまいましたが、引っ越した先でも繁殖に成功し、何頭か生まれた子のうち当園にやってきたのが、セレンです。つまりツキとセレンは兄弟ということになりますが、あまり性格は似ていません。少し臆病で神経質なところがあるツキとは反対に、セレンは好奇心旺盛なやんちゃ坊主です。また各々の行動も違っていて、セレンは放飼場の草を引っこ抜いたり地面に穴を掘ったりボールで遊んだりと、とにかく活発に動き回りますが、ツキは手ごろな石やコンクリートブロックに頭をのせ、枕のようにして寝ていることが多いです。動物が枕なんて使うの?と意外に思うかもしれませんが、猛獣館にいるピューマやジャガーも、コンクリートの少し高くなった部分に頭をのせて休んでいることがよくあります。頭の位置がしっくりくるのかもしれませんね。
 さて、そんなブチハイエナの兄弟は、今年で11歳と8歳になりました。ブチハイエナの寿命は約30年、まだまだこれからなお年頃です。気になるのはお嫁さん問題ですが、当園では繁殖が成功したとしても飼育できるスペースがないことや、飼育している動物園が少ないため子どもの引き取り手もなかなか現れないことを考えると、難しい問題です。無計画に繁殖させるわけにはいかないのです。しかし今後ブチハイエナの人気がもっと高まり、たくさんの動物園で飼育するようになれば、ツキとセレンがお嫁さんをもらう日も来るかもしれない・・・と淡い期待を抱きながら、飼育担当者は今日もブチハイエナの魅力をみなさまに伝えるべく奮闘しています。猛獣館に入る前に一度足をとめて、意外と愛らしい顔をしたブチハイエナをゆっくり観察してみてください。

飼育係 川合 真梨子

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