でっきぶらし(News Paper)

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221号(2014年12月)5ページ

病院だより ~バトン~

 当園ではオオアリクイを一九八一年から飼育しています。現在は猛獣館の奥で飼育していますが、最初は、現在「ふしぎな森の城」になっている旧は虫類館の横の獣舎で飼育していました。最初のペアはオスの名前がジョッキー、メスの名前がオカアチャンで、ジョッキーは来園当初はまだ小さく、オカアチャンにおんぶされていました。そのペアが良いペアで、最初の子供こそ、育たなかったものの、多くの子供を儲けて、全国の園館に旅立ってゆきました。しかし、二〇〇〇年を最後に当園ではオオアリクイの出産から遠ざかっていました。そこで、今年初めに若いペアを形成しました。ペアのメスの妃南(ヒナ)は、ジョッキーとオカアチャンの沖縄に嫁いだ娘の子で、二頭にとっては孫にあたり、二〇一二年秋に来園しました。そして、今年八月に待望の赤ちゃんが産まれました。そんな嬉しいニュースもありましたが、その陰で、悲しいお別れもありました。
 ジョッキーとオカアチャンの子供で、最初に育ったのがムチャチャです。一九八九年生まれのメスで、名前のムチャチャはスペイン語で「女の子」という意味です。ムチャチャはわりと体格が良いメスで、十歳の時に一頭のオスの子を産んで、育て上げました。
 数年前からムチャチャの後ろ足のくるぶしには、傷が出来てしまい、いつも包帯を巻いていました。週に二回ほど傷口の様子をみて、治療して包帯を交換していました。寝ているときはそのまま交換しますが、起きているときは脇腹から腰のあたりを「トン、トン」と軽く叩いてやると、マッサージのように感じるのか、気持ちよさそうにじっとしていてくれました。春になり、暖かくなってくると足の血行が良くなるのか、傷口が小さくなるのですが、秋を過ぎて、気温が下がってくると、再び傷口が大きくなるということの繰り返しでした。今年の冬には胸にしこりが出来て、そこから出血してしまい、麻酔をかけて調べたこともありました。
 そのムチャチャも二十歳を過ぎて、だんだんと衰えが出てきていたのですが、今年の八月下旬に入ると、採食量がめっきり落ちてきました。抗生剤や栄養剤などを注射していましたが、九月に入ると餌を食べなくなってしまいました。水は少し飲むので、水にスポーツドリンクの様なものを混ぜて、栄養剤の注射や点滴を毎日するようになりました。
 日を追って、ほとんど寝ている状態になり、それまで注射や点滴の時は、少し体を動かすことはあっても、基本的に大人しくしていたのですが、九月一九日には、点滴の針を刺す時に「ブォー」と鳴いて、こちらを見つめました。その後の処置を続けるかどうか悩みつつ、翌日も同じ、処置をしたのですが、その時も「ブォー」と鳴き、何だか「もういいよ」と言っているような気がしました。
 そして九月二一日の朝、出勤してすぐ顔を見に行ったときはまだ息がありましたが、その後ムチャチャは亡くなりました。もう少しで二五歳に届くところで大往生と言えると思います。
 ムチャチャの息子は子孫を残せず亡くなったので、ムチャチャの直系の子孫はいません。今年、赤ちゃんを産んだ妃南はムチャチャの姪にあたります。ムチャチャがそれを認識していたかどうかわかりませんが、今年当園で生まれた赤ちゃんはムチャチャにとって、その姪の子供です。ムチャチャは赤ちゃんを見ていませんが、気配は感じていたと思います。ムチャチャからみると、今年の赤ちゃんは「姪孫(てっそん)」や「又姪(まためい)」と言うそうです。ムチャチャは自分の直系の子孫は残せませんでしたが、血縁の子孫が産まれてから亡くなりました。もしかするとムチャチャは自分たちの「バトン」を渡せたと感じたのかもしれないと、勝手に考えてしまいます。

動物病院係 金澤 裕司

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