でっきぶらし(News Paper)

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220号(2014年10月)6ページ

病院だより ~教室にお邪魔する季節~(Part1)

 動物園での仕事の中で、私がとても楽しみな時間があります。「どうぶつえんのじゅう医」というテーマで小学校2年生の授業におじゃまする時間です。
 動物園の飼育員や獣医師は出張動物園ガイドを行っています。学校や公民館などからの依頼に合わせて動物園を飛び出し、飼育について、動物の生態や環境について、命について様々なテーマに合わせてみなさんにお話に行きます。その中で大人気講座の一つになっているのが、「どうぶつえんのじゅう医」です。
 小学2年生の国語の教科書に「どうぶつえんのじゅう医」というお話が載っています。県外のある動物園の獣医師が自分の一日の仕事を説明しています。毎日園内の動物達に声をかけながら見回りを行っていること、飼育員に呼ばれて動物達の治療をすること、薬を飲んでくれない動物には大好物に忍び込ませて与えること、衛生を保つためにシャワー室があることなどなどが書かれています。国語の授業として漢字や表現のねらいがあるのはもちろんなのだと思いますが、子供達は身近な地元の動物園ではどうなっているのか?に興味津々です。「日本平動物園でも動物に声を覚えてもらうの?」「おなかに赤ちゃんのいる動物はどうやって調べるの?」「ペンギンがボールペンを飲み込んじゃうことはあるの?」「お風呂はあるの?」授業前の先生からのお手紙にも子供達の疑問がびっしり書かれています。このたくさんの質問に答えるために、「どうぶつえんのじゅう医、日本平動物園版」のお話をしています。動物と治療の様子の写真をスライドにし、実際に使う無線機や獣舎ごとの鍵の束、麻酔をかけるときに使う吹き矢やレントゲン写真などの実物と、トラの頭骨、ホッキョクグマの毛皮などの標本も用意します。
 移動教室で準備をして待っていると、入ってきた子供達が、「わー!それ何?」「本物?」「恐竜の骨?」すぐに標本を見つけて目をキラキラさせます。授業開始のあいさつをして、私の自己紹介から始めます。「私は日本平動物園で獣医をしています。今日は、いつもの仕事の格好できました。」作業服につけた無線機や鍵、ポケットに入れた皮手袋や懐中電灯、メモ帳などを取り出して説明します。「仕事の時間割を順番に説明します。午前中は、教科書と同じです。動物達の見回りをします。」教科書と同じ点、違う点を挙げます。見回り中に行う治療の様子をスライドで紹介します。長年、足の傷の治療を続けているオオアリクイのムチャチャの包帯を取り換える様子を紹介すると、「アリクイの包帯知ってるよ!」とみんな大きな声で教えてくれます。「みんな、よく見ているね!」と答え、地元の動物園が子供達に親しまれていることを実感しうれしくなります。「ペンギンに薬をあげる時はどうすると思う?」みんな「う~ん・・・」と考え込みます。「正解はこれ!」と、アジと錠剤を砕いていれたカプセル、液体の飲み薬を入れた注射器の写真を見せます。「え~?」「カプセルは、ペンギンが食べるエサのアジの口の中に入れて、液体の薬はアジに注射をするよ。薬を仕込んだアジをペンギンが食べれば、ペンギンのおなかの中で薬が効くね。」「あ!そっかー。」「じゃあ、ニホンザルに薬をあげる時は?」「そうだね、教科書では薬は苦いからハチミツに混ぜてパンにはさんだよね。私達は、ニホンザルの大好きなゆでたサツマイモをおだんごにして中に隠すんだ。」「それでもバレたらどうするの?」「そうなんだ、バレちゃうことがあるからパンやバナナにはさんだりいろいろ試すこともあるの。あと、なるべく苦くない薬を選ぶよ。苦いかどうか味見もするんだ。」「へぇ!」「トラやライオンに治療するときはどうすると思う?」「触って平気なの?」「いいえ、すごく危険です。だから、これを使って麻酔をかけるよ。眠っているのを確認して檻に入って治療するの。」と用意した吹き矢のしくみを説明をしながらトラに麻酔をかけた時の写真を見せると、みんな思わず息を飲みます。
(Part2へ続く)

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