でっきぶらし(News Paper)

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219号(2014年08月)3ページ

オランウータン館の話

 でっきぶらしにも何度か書かれていますが、日本平動物園では古い獣舎を壊し、新しく立て直す再整備事業を行いました。その最後を締めくくった建物が、今回の記事に書くオランウータン館です。この獣舎は「プロポーザル方式」、通称「プロポ」と呼ばれる方法で設計されています。よく聞く、競争入札と何が違うのかというと、金額の安さではなく、より良い企画を提案した業者が落札出来る方式です。このおかげで良い業者に設計してもらえることになり、担当の自分としてはラッキーでした。ただ、通常は「人が使用する建物」の図面を引いている業者さんなので、「オランウータンが使用する建物」を設計する事は行ったことがなく、勝手が分からない感じでした。だから当然、どんな建物にするか説明する自分も大変で、たとえば「オランウータンは指でボルトを回してしまうので、溶接する事。」、「この扉は縦○○cm。横○○cmで内開き。」など細かく指示しなければならなかったため、設計中は飼育員なのに胸ポケットにメジャーを常備していて、なにかある度に、旧獣舎のあちこちを測っていました。このおかげで、今でもサイズを測らなくてもある程度物の長さが分かったりします。
 あーでもない、こーでもないと、いろいろありましたが、大きなトラブルもなく設計は無事終了しました。さて、そうなればいよいよ獣舎の建設です。お客様の迷惑にならないように囲いをし、土木工事に入りました。オランウータン館を建てる場所は坂道にある上、さらに、そこを掘り半地下状態の獣舎となる(このおかげで設計でも苦労しました)ため、土が崩れてこないよう矢板を打ち、かなり大掛かりな工事となりました。
 土留めが終わると、次は建物の基礎の部分の建築です。たくさんの鉄筋とコンクリートが運ばれてきて、とても頑丈そうな物を作っています。現場の人に聞くと静岡は東海地震が来る可能性があるということで、他の自治体よりも2割増しの強度で作っているそうです。
頑丈な基礎も出来上がり、いよいよ最後の作業に入ります。オランウータン館本体の建築です。こちらも基礎同様たくさんの鉄筋が入っています。
 建築工事が進み、ある程度外観が出来上がってくると、また新たな自分たちの仕事が出来ました。それは、「図面の見落としチェック」です。何度も会議し図面を確認したのですが、自分たちは所詮ただの飼育員、絶対見落としがあります。だから毎朝、業者さんが仕事をする前にヘルメットを被って建物に入り「オランウータンの手が届くところに変なものはないか」、「扉の位置はおかしくないか」、などなどいろいろ見て回りました。ただラッキーなことに、再整備事業の最後の獣舎だったので、建築業者さんも作り慣れてきたらしく、「ここはこれでいいの?」などと、まずい箇所を指摘してくれたこともあり、ほぼ不具合のない獣舎が完成しました。の後、オランウータン館の検査&引渡しも終わり、いよいよオランウータン本人の引越しに入りました。オランウータンはとても力が強い動物です。だから、獣舎の引越しを行う時は通常、麻酔を掛けます。他の動物なら普通、担当者が作業を手伝ったりするのですが、オランウータンは力が強い以外に、とっても頭が良かったりします。もし麻酔を掛けるのを手伝って「あいつは嫌な奴だ!!」と思われてしまったら、これから先、担当者の言う事を聞いてくれなくなるかもしれません。なので、自分と代番者は段取りだけして後は獣医と他の飼育員にまかせました。設計~獣舎の建築までは大変な思いをしましたが、ここだけは楽が出来ました。
 引越しも無事終わり、めでたし、めでたし…と言いたい所ですが、まだ大事な仕事があります。それは「オランウータンの馴致」です。人間だって目隠しされて全然知らない建物に入れられたら「どこだ、ここは?」状態になりますよね。オランウータンも同じで寝室に入れて麻酔が覚めた後、落ち着かなく、あちこちウロウロしていました。しかし、そこは良い子のジュン(♂)と、ちょっと良い子のキャンディ(♀)、次の日にはすっかり落ち着いていました。さて、そうなれば次はいよいよ寝室から外の運動場に動く練習です。
まずはジュン。シュートを開けてみるとすんなり外へ、オランウータンは結構行動が慎重だったりするのですが、旧獣舎と違い広くなり、360度見渡せるようになって面白かったのか、グルグルあちこち探索し始めました。
 外にも慣れた感じになり、落ち着いてきたところで、次は寝室収容の練習です。シュートを開けます………うーん帰ってこない。先ほど書いた通りジュンは良い子なので、すんなり入ってくれることを期待したのですが、なかなか帰ってきません。そうこうしているうちに30分経ってしまい「長期戦か、それとも今日は運動場に出しっぱなしにするか…どうしよう?」と一人悩んでいると、ジュンはこちらの気持ちをくんでくれたのか、外で運動しすぎてお腹がすいたのか分かり

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