でっきぶらし(News Paper)

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208号(2012年10月)5ページ

≪病院だより≫サイボーグ・ルル???

 今回はプレーリードッグのメスの「ルル」のお話です。ルルはふれあい動物園の一角でオスの「ヤマモトクン」と暮らしています。真夏の暑い日のことです。
園内を巡回していると、ふれあい動物園の職員がルルのしっぽの先っぽが無くなってしまって、出血の跡があると言うのです。獣舎の中に入って捕まえてみてみると、しっぽの半分ほどが無くなっている状態でした。
そこで、まず傷口を洗浄、消毒して、薬を塗り、抗生物質の注射をしました。数日するとしっぽの先が化膿してきてしまい、腫れてきているようでした。薬を塗り、注射を打ちましたが、しっぽを噛む行動が目立つようになりました。しばらくして、しっぽが更に短くなってしまい、お尻の穴のすぐ横が深さ2センチほどの傷になってしまいました。しっぽやお尻を自分で噛んでしまったようです。結構な深さの傷なので、即、入院となりました。
 体つきは丸々として、餌は良く食べているようです。傷口を処置した後に、傷口をこれ以上いじって欲しくないので、エリザベスカラーを装着しました。エリザベスカラーとは犬や猫が着けているのを見たことがあるかもしれませんが、傷口を口でいじることで傷を悪くさせないように、首の回りにプラスチックなどでラッパのような形を作って、口先が患部に届かないように装着するものです。エリザベスカラーを着けていると餌を食べづらいので、皿に置いた餌の他にも、特製野菜ミックスジュースも飲んで貰っていました。
 その後、毎日、傷口を消毒し、投薬していましたが、どうも良くなりません。まだ傷口をいじっているようです。前足の爪に、血が固まったようなものがついていたので、口よりも前足でいじっているようです。爪も伸びていたので切ってから、どうすれば前足が患部に届かないのだろうかと考えました。前足でお尻の傷口をいじるには、足を投げ出して、背中を丸めて、座った状態でいじっているようです。
 それならば、前足が届かない程度にしか、背中を丸められなければ良いと思い、エリザベスカラーを脇の下辺りの胸から、お腹側に向けて逆側にも着けてみようと考えて、長さを調整して作って、着けてみました。見た目はプラスチックのスカートようで、名前もルルと書いてあげました。当面は前足がお尻の傷口に届かない様で、「上手く行くと良いな」と考えていました。しかし、次の日、上のエリザベスカラーも下のスカートも外してしまったので、再度装着しました。しかし、また翌日外してしまったので、少しずつ改良して着けてみました。少しスリムになったことも影響しているようです。
 その後、一週間ほどはエリザベスカラーもスカートも外すことなく、傷口も大分良くなってきました。入院室や治療中に時折、ルルは上下の歯を「カチ、カチ、カチ、カチ」と音を立てることがありました。不機嫌で怒っている時に鳴らすようです。二つもプラスチック製の服を着せられていることが気に入らない様です。
 今度はある日、プラスチックが劣化してきたせいもあるのかもしれませんが、齧ってエリザベスカラーに穴を開けてしまいました。そこで、歯が当たりやすい部分を補強したエリザベスカラーを着けて貰いました。この時も「カチ、カチ」と歯を鳴らして、大暴れです。状況に応じて、装備をマイナーチェンジしてグレードアップして行きます。この状態を見た、ふれあい動物園の職員の一人は「ルル、まるでサイボーグみたいになってきましたね」と言って、笑っていました。
 ただ、エリザベスカラーとプラスチックスカートのあたる首と腋の下が徐々に擦れて、赤みが出てきました。しばらくすると、お尻の傷はかなり良くなってきていましたが、首の部分が切れて、傷になってしまいました。傷口を治療した後、上のエリザベスカラーを中止して、下のプラスチックスカートも更に長いプラスチックのロングスカートに変更しました。首の傷口は口も前足も届かないようなので、これで状況を見守ることにしました。
 その後、何とか、首とお尻の傷が良くなったので、ロングスカートを外し、一日様子を見た後に退院となりました。入院してから一ヶ月ほど続いた、傷口をいじろうとするルルとそれを防ごうとする動物病院のスタッフの根競べは漸く終わりました。退院した後も、元気良好で食欲旺盛なようです。ふれあい動物園を訪れる機会があったら、しっぽの短い「ルル」に是非会ってやって下さい。

動物病院担当 金澤 裕司

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