でっきぶらし(News Paper)

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208号(2012年10月)3ページ

 眩い太陽の光と爽やかな秋風を受けてボクは育った。きょうだいはどのくらいいただろう。数えきれないくらいだ。おそろいの赤い服はボクたちの自慢だった。
 ある日のこと。ボクたちにもその時がやってきた。きょうだいとともに家を離れ、旅に出ることになったのだ。一人ずつ丁寧に荷造りし、木製の箱に入ったボクらは車に揺られ、しばらくしてとても涼しい場所にたどり着いた。ここにはボクたちと同じように旅立つ仲間もたくさんいた。みんなそれぞれの場所へ旅立つのを待っている。ここで少しだけ休憩し、きょうだいや仲間と一緒に動く歩道に乗った。寂しいけれど、ここでお別れするきょうだいもいる。体の大きさなどでボクらの旅先は変わってくるのだ。みんなに別れを告げられないまま、歩道はどんどん進んでいった。
 こうしてボクらの旅先が決まった。みんなそれぞれ希望と不安が入り混じっている。ボクもこの先どうなるのかドキドキしながら、ベッドに入った。この先は長い。ベッドに入ったまましばらくドライブが続くんだ。
 そしてボクらきょうだいはそれぞれの地へ旅立っていった。みんな旅先でおそろいの赤い服の自慢でもするのかな、と思いつつボクは眠りについた。
 太陽の匂いを感じて目を覚ますとそこでは威勢のいい声が響いている。何を言っているのかよく分からなかったが、もうボクに不安はなかった。ここからが本当の旅の始まりだ。ボクはさらに車に揺られて、とある場所へたどり着いた。土の匂い、いろいろな動物の匂い、鳴き声がする。どうやら動物をたくさん飼っている場所のようだ。
 そう、ボクの旅先は静岡市にある日本平動物園だった。ボクの旅の最終地点。ここから先は各動物の餌箱に仕分けられ、各獣舎に運ばれるのを待つ。
 ・・・・・・こうしてボクは「リンゴ」としての一生を終えた。日本平動物園にいる動物たちの健康な身体を維持するための手助けが出来たのだ。

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 日本平動物園では毎日新鮮な野菜や果物を八百屋さんから仕入れています。今回はその中の一つ、リンゴが動物たちの餌になるまでを物語調にして書きました。
 飼育・野生に関わらず地球上に生きる動物は他の動物や植物の命を戴いて生きています。それは私たち人間も同じです。一つ違うことは、動物園動物を含んだ飼育動物や人間が食べる物には、我々のもとへ届くまでに多くの人が関わっていることです。生産、市場、輸送・・・どのくらいの人が関わっているのでしょうか。
 人間も動物も多くの人の手を借りて生きている。ここ日本平動物園の動物たちも見知らぬ多くの人々の手によって生かされているんだと感じます。よくよく考えると不思議なものですね。
 皆さんも夕食の買い出しでスーパーへ行ったとき、そして動物園に来て運良く動物たちのお食事タイムを目撃した際に、その食べ物の先にいる見知らぬ誰かに思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

飼育担当 宮田 鮎美

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