でっきぶらし(News Paper)

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197号(2010年12月)5ページ

≪病院だより≫ナラ母さん、頑張って

 今年は春から色々な動物の赤ちゃんが生まれていますが、今回はレッサーパンダの赤ちゃんについて報告したいと思います。レッサーパンダは1月から3月にかけて交尾をして、6月から7月終わり位までに出産する季節繁殖動物で、繁殖するのは10才を少し超える位までのことが多いです。日本の動物園ではレッサーパンダの繁殖は結構順調なのですが、大人まで成育しても子孫を残しているのは四割弱です。
 現在、日本平動物園で飼育しているレッサーパンダのペアは第三世代と言えます。第一世代は1980年代に中国から日中動物親善大使として中国の西安市から来園したペアで、第二世代は京都市動物園から来園したオスのシンシンと長野市茶臼山動物園から来園したメスのミミでペアを形成していて、そこに釧路市動物園からやってきたメスのカアサンが加わっていました。そして第三世代として、2001年に広島市安佐動物園からメスのナラが来園し、2002年に東京都多摩動物公園から来園したフウフウとペアを組み、この二頭から2003年に風太が誕生しました。フウフウは風太の姿を見ることなく、当園に来て一年ちょっとで亡くなってしまいましたが、ナラは立派に風太を育て上げ、風太は千葉市動物公園へ行き、子孫を残しています。その後ナラの旦那として2004年に周南市徳山動物園からオスのシュウシュウが来園し、現在も続くペアが形成されました。しかしこの頃からナラに変化が現れてきました。2004年、2005年と続けて出産しましたが、子育てをせず、2006年にシュウシュウとのペアでは初めて育て上げて、シュウナと名付けられました。その後も毎年出産するものも、成育したのは2008年に産まれて、人工保育にしたメスのクウだけでした。
 ナラも今年で10才になって、繁殖できるのもあと2、3年と思われるので、少しでも子孫を残しておきたいと思っていました。ここ数年の状況から、今年は出産したら、少しだけ様子を見て、駄目そうだったらすぐに子供を取り上げて人工保育にしようと春先に担当者と決めていました。
だんだん暖かくなってくると徐々にナラの体重は増え始め、7月上旬に乳汁が出ることを確認し、 7月18日に、せっせと巣箱に巣材を運び始め、出産の準備が始まりました。
 7月19日の午後から陣痛らしき徴候が見られ始めました。その後巣箱に出たり、入ったりしていましたが、午後4時40分に巣箱の外に一頭目を出産しました。子供は大きな声で鳴きますが、ナラは舐めることもせずに、巣箱に入ってしまいました。5分たっても面倒をみようと巣箱の外に出てこないので、人工保育にすることにしました。20分後に二頭目を再び巣箱の外で出産し、すぐに巣箱に入ってしまって出てこないので、二頭目も人工保育にすることにしました。その20分ほど後にナラはすっきりした様子で巣箱から出てきて、餌を食べ始めました。出産の準備までは本能で行うようですが、残念ながら、その後にやらなければならないことは忘れてしまっているようです。
産まれた子供を動物病院に運び、へその緒を糸で結んで、ハサミで胎盤を切り離しました。体をタオルで拭いて乾かし、体重を量ると、一頭目が139g、二頭目が174gで、まだ体の毛の色も灰色です。その日から担当者がお母さん代わりに、授乳を始めました。レッサーパンダの人工保育で一番怖いのが、誤嚥性肺炎と言って、ミルクが肺の中に間違って入ってしまい、肺炎を起こしてしまうことです。それを防ぐために慎重に、慎重にミルクを与え、担当者と獣医で連絡体制をとり、何かあった時に駆けつけられるようにしました。
 また、レッサーパンダの子供の頃はオスかメスか外見を見ただけではわかり難いのですが、おしっこが出る穴とうんちが出る穴の長さと頭の先から尻尾の付根までの長さの比率で判定することが出来ます。生後二日目に測定してみると二頭ともメスだとわかりました。
二頭ともミルクの吸いつきは最初から良く、与えるとすぐ飲み始めました。他の動物では欲しがる分だけミルクを与えても割と大丈夫なことが多いのですが、レッサーパンダは欲しがるだけミルクを与えてしまうと、体重の増加に骨格等の体の成長が追い付かず、内臓などを圧迫してしまうケースがあるので、今まで成功したデータを見比べながら、欲しがっても心を鬼にして我慢して貰いました。それでもミルクを欲しがって担当者の手や腕を「チュウ、チュウ」と吸うので、担当者はいつもキスマークをたくさんつけていました。また、最初の頃はうんちの出が悪く、便秘気味だったので、ヒトで良いと言われているオリゴ糖を毎日少しずつ与えてみました。オリゴ糖がレッサーパンダでどのような作用をするかは検証されていませんが、悪影響は無いだろうと判断して試したところ、若干、便通が良いような印象を受けました。
 生後一か月もすると毛の色が徐々に変わり、大人のような茶色と黒い毛になってきて、段々活発に動くようになり、まるで動く「ぬいぐるみ」のようになってきました。成長するに従い、二頭の性格にもはっきり違いが出てきて、妹の方が活発で、姉の方がおっとりしています。初めて走ったのも妹で、普段の遊びの行動などもそうですが、ミルクを与えるのを哺乳瓶からバットにして、自分で飲んでくれるように変更する時も、離乳食を与える時も妹の方があっさり受け入れましたが、姉の方はなかなか順応してくれませんでした。何はともあれ、10月26日には一般公開され、順調に育ってくれてホッとしています。

動物病院 金澤 裕司

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