でっきぶらし(News Paper)

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195号(2010年08月)4ページ

≪病院だより≫エリマキキツネザルの赤ちゃん成長中

 皆さん、エリマキキツネザルというサルをご存知ですか?アフリカ大陸の東側のマダガスカル島東部の多雨林に生息していますが、現地での生息数は減少しており、レッドデータブックで絶滅危惧種に指定されています。首の回りに襟巻のような白い綺麗な毛が生えていて、純白と黒褐色の毛色が美しいサルです。日本平動物園では小型サル舎で飼育されており、時折「ギャースカ、ギャースカ」と大声のコーラスを聞くことができますが、これは群れのコミュニケーションの意味を持つようです。
 当園のペアはここ数年連続で出産して、子供を育てていますが、今年の五月のある日、放飼場に赤ちゃんを産み放しにしているとの連絡が入りました。小型サル舎に行ってみると双子の赤ちゃんが産み落とされていました。動物園で飼育する分には子育てをする際に、天敵から身を守る術や餌を採る技術を身につける必要はありません。しかし、成育した後にその動物種における社会性等を身につけるためにも親が育てることが一番なのですが、その後母と子供だけにして様子を見ても、面倒を見る気配がないので人が親代わりになる人工保育として育てることにしました。
 体が冷えてしまっていたので、保温して人の赤ちゃん用ミルクを注射器のシリンジに乳首を付けて、舐めさせてみると少ずつ飲み始めました。身体検査をしてみると一頭がオスで体重110g、もう一頭がメスで体重120gでした。焦点はあっていませんが目もしっかり開いていました。二頭を区別するためにオスは耳の白い部分にマジックでマークを付けて「赤」と名付けて、メスは「白」と名付けました。
 赤ちゃんの頃は自分で上手にうんちやおしっこをすることが出来ないので、普通は親が舐めてやるのですが、人が育てる今回のような場合は股間をやさしくマッサージして、排泄を促してあげます。人も含めて動物の赤ちゃんというのは、顔も体も丸っこくてコロコロしていることが多いのですが、今回のエリマキキツネザルは鼻先も結構しっかりと長く、手足も細長くて親のミニチュア版という感じで、「ムギュ、ムギュ」と鳴いていました。
 人間用の保育器に入れて、様子を見ながら一日5回に分けてミルクをあげることにしました。その内の二回は早朝と夜なので、持ち運べる携帯用の保育箱に入れて交代で家に持ち帰り、世話をすることになりました。人工保育を始めてからしばらくは、乳首をくわえても吸うのではなく、少しずつ舐めては、飲むというような感じが続いていましたが、数日すると自分で舌を上手に使いながら吸いこんで飲むようになりました。
 便の調子は軟便から下痢が続き、体重の上昇はなく、現状維持の状態が続きました。徐々に一回の哺乳量も上昇し、生後二週間目位からようやく体重の増加が見られるようになり、ホッとしたものの便の調子は軟らかめが続きました。この頃になると、こちらが動くとそれを目で追うようになってきて、普段は二頭くっついて丸まって寝ているのですが、ミルクをあげる時はもちろん、それ以外の時でもこちらが姿を見せると、寝ていても起き出してくるようになりました。エリマキキツネザルは大人でも比較的軟らかい便をしますが、それを差し引いても、軟便なので、体重の増加と便の調子を見ながら哺乳を続けていました。
 生後30日ほど経過して、歯が多少生えてきたこともあり、そろそろ離乳準備をしようと離乳食も少しずつ与え始めました。すりつぶしたバナナを口に持ってゆくとすると最初からペロペロ美味しそうに舐め取りました。離乳食を与え始めると同時に良好な便をすることも多くなり、離乳食も最初はバナナを中心にしていましたが、煮イモやパンをミルクに浸してお粥状にしたものなども与えるようにしました。段々と表情も豊かになり、感情表現も見えるようになりました。性格も違いが出てきてオスの「赤」の方が活発で、メスの「白」の方がおしとやかなようです。担当していない飼育員など初めて見る人が顔を見せると尾を挙げて、威嚇するような仕草をすることもありました。
 生後40日目には運動量が増えてきたので、病院内では保育器からちょっと大きなケージに移動して、生後50日近くなる頃に哺乳と離乳食の回数を4回に減らしました。動きもかなり活発になり、体重を計るのも苦労し始めていましたが、置いておいた餌も食べ始めていたので、もう一安心と生後53日目に家に持ち帰るのを終了しました。
 ある時、病院の飼育室で物を落として大きな音を立ててしまった時に「カッ」という叫び声が聞こえました。誰が叫んだのか回りを見渡してみるとエリマキキツネザルの子供のようでした。どうも音に驚いたようで、大人の叫び声程ではないのですが、その後も時折飼育室の掃除などで大きな音が起きると叫び声をあげています。
 人工保育の今回は、実のお母さんに育てられる場合と比較して、成長は遅いように感じられますが、元気にぴょんぴょん跳ねています。最初はあまり赤ちゃんらしくない顔立ち、体つきでしたが、親バカなのか最近は皆で「エリマキかわいくなったよなぁ」と言っています。まだ病院で成育中ですが、皆さんの前にお披露目出来る日が来れば良いなぁと思っています。

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