でっきぶらし(News Paper)

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188号(2009年06月)4ページ

病院だより  キョウコちゃんの便秘

お客さんでにぎわう4月のある日曜日の午前。子供動物園の幼児教室やイベントで大活躍のキョウコちゃんの異変に気付いたのは担当の飼育員さんでした。

一生懸命力んでいるキョウコちゃん。おしりの辺りがボッコリ膨らんでいます。「おかしい!」動物病院に連絡が入り、午後に動物病院へ運び検査をすることになりました。「さて、どうやって連れてこようか?」「じっと治療させてくれるかな?」あれこれ考え、ひとまずキョウコちゃんを運ぶための大きな麻袋とケージをレッサーパンダ号(軽トラック)に積んで子供動物園に迎えに行きました。

麻袋とケージを荷台から降ろそうとすると、「このまま行こう。その方が本人が落ち着くから。」と飼育員さんはキョウコちゃんを「よいしょ」持ち上げ、そのまま、レッサーパンダ号の荷台に乗りこみました。

お客さんがいる園内をトラックが走る時は、音楽を流しノロノロスピードで進みます。「なんだなんだ?」と振り返るお客さん。「キャーッ!」「大きいヘビだぁ!」
 
キョウコちゃんとはビルマニシキヘビのメス、あのふれあいの時大勢で抱える大きなヘビです。ふれあいに連れ出す時と同じように飼育員さんの首に長い体をひっかけたままの状態のキョウコちゃんを乗せてレッサーパンダ号は進みます。

お客さんはみなさんびっくり。「どこ行くの?何するの?」「調子が悪いから動物病院で診てくるんだよ。」「頑張ってねー。」荷台のキョウコちゃんはみなさんの注目と声援を浴びながらおとなしく動物病院へ向かいました。

荷台の上で飼育員さんと私はキョウコちゃんのおしりの辺りの腹側の膨らみを確認しながら、「去年はゴールデンウイークに産卵したよね?卵詰まりかな?」「考えられますよね。取り出せるかな?」

「去年は40個産んだからなぁ。」「まずはレントゲンですね。」キョウコちゃんのおしり(総排泄腔といって、便、尿、卵すべてが出てくる穴です。しっぽの先から20cmくらいのところの腹側にあります。)の膨らみは小さなゲンコツ大で上から見るとツチノコのように横にも出っ張っています。

おなか(総排泄腔の位置から推定した辺り)からおしりまでパンパンです。「何かが詰まっている。何だろう?どうやって取り出せそう?」短い移動時間、病院での処置の仕方に思いを巡らせました。
 
動物病院に到着して、まずはレントゲン。キョウコちゃんは飼育員さんの首にひっかけられたままおとなしくしています。そのすきにおしり付近をパチリ。すぐに診察台に移動して、先輩獣医がおしりに指を入れ中を探りはじめました。

指がまっすぐ入っていかず入り組んでいる様子。そのうちに出来上がったレントゲンを見て、「卵は写っていません。ただ、ゲンコツをいくつも並べたような腸になっています。」腸から総排泄腔にかけての一本の管が何かがぎっしり詰まり入り組んでいるようです。

しばらく入り組んだ管の奥先を探り続けます。この間、体長2.5m、体重15kgのキョウコちゃんの体を担当の飼育員さんと動物病院スタッフ4〜5人で抱えて持ち続けていました。異変を感じて動き出すキョウコちゃん。

頭が逃げていこうとするのを何度も持ち直し声をかけ落ち着かせる飼育員さん。逃げようとひねらせた体を逃がすまいと抱え続ける病院スタッフ。おしりを探る獣医。

みんな汗だくです。「あ!見えた!わかった!ここだ!!出てきた!!」たぐり寄せた総排泄腔から出てきたのはなんと、硬いウンチ。「フン詰まりだったのか」「まだまだぎっしり詰まってますよ」みんなもう、やるしかありません。

落ち着きのなくなってきたキョウコちゃんの頭に巾着袋をかぶせ動きをなるべく押さえて、覚悟を決めてキョウコちゃんを抱え直します。探りながらたぐり寄せながら、少しずつですがたまっていたウンチが出てきました。

腸の中を少しでも軟らかくするために、注射器の先に細いゴム管をつけて水やグリセリンを流し入れたりもしました。「頑張れ、キョウコちゃん!」ゴロリとウンチのかたまりが出てくる途中、「あれ?違うものに触ったぞ!」そう言って取り出されたのは鶏の卵大のけれど殻は軟らかい卵1個。

「やっぱり卵も詰まってたんだ!」それでもまだまだおなかにかたまりがあります。「頑張れ、キョウコちゃん!うーん、うーん。」おなかをさすり、かたまりが下へと進むようにマッサージをしながら私はいつの間にか思いきり力んでいました。

「ゴロリ!!」「動いた!」おしりから20?以上は遠くの腸に詰まっているらしきものすごい硬いゲンコツがキョウコちゃんの力みと一緒に下へ動き出しました。「頑張れ、頑張れ!」踏ん張るキョウコちゃんと汗だくのみんな。

格闘は一時間半以上続きました。「あと少し!力んで!頑張れキョウコちゃん!!うーん、うーん!」キョウコちゃんが思いきり力むと最後の大きな硬いかたまりが「ゴトリ。」と、出てきました。

「出たぁ!やったぁ!!」マッサージし続けて自分の握力の限界を超えていた私は難産でもしたのかというくらいの興奮でキョウコちゃんに声をかけていました。「よく我慢したなぁ。苦しかったなぁ。ごめんなぁ。」飼育員さんが優しく声をかけます。

ふだんほとんど動きのみられないニシキヘビの異変を見つけるのは難しいことです。手遅れにならず発見できたのは飼育員さんの観察力があってこそ。長時間おしりに手を突っ込まれ、大きなウンチをかきだされたキョウコちゃんのツチノコだった部分はフニャフニャですがまだゆるんだまま。

栄養剤と抗生物質を最後に注射して、巾着袋をかぶったまま、今度は麻袋に入って、ケージに入れられて子供動物園へ帰って行きました。

翌日、私の掌が、指が痛い。筋肉痛でした。こんなところ滅多に鍛えられません。

しばらくして、キョウコちゃんは普通に便が出ました。今はゆるんだ辺りもすっきり元の姿に戻ってきています。子供動物園の大きなニシキヘビの色のうすい方が頑張り屋のキョウコちゃんです。ふれあいで、おしりの辺りを抱える機会があったらそっとなでてあげて下さいね。
(長倉 綾子)

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