でっきぶらし(News Paper)

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180号(2008年02月)8ページ

病院だより チンパンジー 「おくすりの時間ですよ」

すっかり寒くなりました。今年は去年の暖冬とは違いますね。この時期に気にかかることといえば、人間でもそうですが「風邪」ですね。

インフルエンザも例年になく流行り出す時期が早かったそうですし、今年は風邪が心配・・・。体調を崩しがちなこの季節、動物園でも動物たちの健康管理には特に気を配っています。

各動物の寝室には赤外灯や赤外線ヒーター、床暖房などで寒さ対策をし、寒さで尾が凍傷になりがちなリスザルには寒さをしのげる巣箱を増設したり、予防薬をあげたり、チンパンジーにはネギをあげたり(他の動物園から風邪予防にと教えてもらいました)。

ゾウのシャンティは食いしん坊で、飼育担当者が「寒いだろうから」といつもより多く入れてくれた寝ワラを朝までに全部食べちゃったこともありましたが。

毎年風邪を引きやすいチンパンジーたちは、1頭が鼻水を出し始めると、あっという間に群れ内に広まります。あっちでゴホゴホ、こっちでゴホゴホ。「あちゃ〜、風邪引いちゃったかあ」となると、早めに風邪薬を飲ませます。

飲ませます、とさらっと言っても、そうやすやすとは「おくすり」を飲んでくれません。苦い薬なら吐き出すのはしょうがないのです。体のためだから我慢して飲んでね、と言ってもさすがにいつもと味が違うと警戒するのは当たり前です。

しかし、(人の味覚では)味がない薬でも、時には甘い味のする薬でも、いつもあげているミルクやオレンジジュースに混ぜたり、ヨーグルトに混ぜたりしても、「それに薬入ってるの、わかってるもんね」と言わんばかりに、見向きもしてくれないことがしばしば。

一番苦労するのは飼育担当者の3人です。チンパンジーやオランウータンのような類人猿に手渡しでヨーグルトや飲み物をあげられるのは、彼らとの間に長年の苦労を重ねて信頼関係を築いた飼育係にしかできないすごいことなんですよ。

当然、私たち獣医師も直接薬を飲ませることはできないので、担当者にお願いして頑張ってもらっています。いつもクールな担当者から「平静を装ったけど、今日はだめだったよ・・・」と聞くと、「アカデミー賞で言えば助演男優賞(「主演」は動物園では動物ですよね)を取れるくらいの人が無理ならしょうがない、がんばれ自然治癒力」と思ったりします(?)。

今年の冬は風邪の大流行はまだありませんが、メスのピーチが12月から1月までしばらく体調を崩してしまいました。食欲がなく、お腹を下して、夕方見に行くと床暖房の上でハクサイで円を描いた(ベット)中にだるそうに寝ていることが多かったです。

食欲が出るようにと、イチゴをあげてみたり、園内の夏みかんを取ってきてあげたり。薬は体調と気分によって、やはり飲んだり飲まなかったりしました。人間のように直接診察はできないし、調子の悪い中そう簡単に麻酔をかけて検査するわけにもいかないし。

心配する日が続きましたが、飼育担当者の思いやりのある看病のおかげで、1月下旬にはすっかり元気になりましたよ。良かったね、ピーチ!
                 
(野村 愛)

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