でっきぶらし(News Paper)

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172号(2006年10月)3ページ

おさるさんだよ 〜マーモセットのお話?@

動物園で人気のある動物のひとつにサルがあげられるでしょう。なかでもチンパンジーのような類人猿は別格的存在です。
と言っても、今回話すのはチンパンジーのことではありません。サルとひとくちに言っても、世界には2百種類ほどのサルがいます。どこかに的を絞って話す必要があります。

そこで、まず私が今担当しているマーモセット類から話を始めていきましょう。俗にポケットモンキーと言われる小さなサルたちの話です。でも、いくら小さくたって、彼らは立派なサルです。他のサル類には見られない様々な面白い習性を持っています。ただ小さくって可愛いサルではないのです。
 
いちばん感激した出来事を話すとすれば、前回担当していた時にまで遡ります。もうかれこれ15、6年前のことになるでしょうか。
アカテタマリンのペアに2頭の子が産まれて順調に育って2ヶ月も経った頃です。離乳も進み、夕方帰る前に1?pほどに切ったバナナを補充に与えるようにしていました。
 
親は結構飼育係に馴れていて、私の手から問題なく受け取っていきます。が、2頭の子は私が恐いようで受け取りに来ません。で、どうするのかと思えば、親が手に持ったバナナを取りに行ったのです。親は嫌がる素振りも見せずすんなり与え、また私のところへ受け取りに来ます。父親も母親もです。

当たり前ではないか、と思われるかもしれません。でも、彼らのことを勉強していて、ひとつ思い知っていたのは、サルには基本的には与える習性がないってことでした。事実、それまでいろんなサルの母子を見てきて、子に食べ物を与える光景になんて出会ったことはありませんでした。
 
それが覆されたのです。そして、それは毎日繰り返されました。心の中で「このサルは与える習性をもっているぞ」と叫びました。
 今思い出しても心暖まる光景です。それは次第に、この習性はアカテタマリンに止まらず、このサルの仲間全てが持っている習性ではないのかと思うようになるに至りました。

それから10年ぶりに代番ながら関わるようになって、ワタボウシパンシェに子が生まれた時のことです。ミルワームという虫を昼過ぎに与えていた時のことです。容器に入れたその虫をまだ上手くつかめないのか自分では取ろうとはせず、親がつかんだのをちゃっかり横取りして食べるのです。これも「与える」と解釈してよいでしょう。

そして13年ぶりの担当となった時、予備室のワタボウシパンシェが予想外の出産です。この子が育っていく過程では、私は予断で動きました。
離乳期に入った頃、ミルワームの水分補給用のリンゴ片を意識的に親に与えてみたのです。子が、親が、どのような態度を取るか見たかったのです。結果は、アカテタマリンのケースと同じでした。バナナとリンゴが違った、それだけでした。

さあ、それに続いてピグミーマーモセットです。子の面倒見がいまいちなこのペア、何かにつけて、はらはらさせてくれますが、それでもやはり「与える」習性は持っていました。
朝、餌をバットにたっぷり入れたのを部屋に入れると、早速ペアが、続いて昨年生まれの子が食べに来ます。が、ふと気が付くと1頭の親の姿が消えているのです。

あれっと思って放飼場を見やると、5月生まれの子がバナナをむしゃむしゃ食べています。子はバットのところへは来ていないのにです。そばでは親がバナナを食べる様子をじっと見つめています。
 それは、子が自力でバットのところへ来るようになるまで続きました。今では親が食べ始めると、ワンテンポ遅れてやって来て、私の特製の樹液に似せた餌を一生懸命食べています。

次はコモンマーモセットと構えましたが、こちらが予想するより成長は早く、気が付いた時には親と一緒にバットの餌に首を突っ込んで食べていました。見落としていたのか、そのようなことはしていなかったのか、今となっては何も言えません。

2度目の担当も早くも1年半、細かいい部分を見落としていた、と改めて思い知ります。逆に言いかえれば、まだまだ新しい発見がある筈です。そんなこんなは次回に語りましょう。

(松下 憲行)

  

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