でっきぶらし(News Paper)

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158号(2004年03月)7ページ

病院だより ワライカワセミのお見合いものがたり

 新年度が始まり2ヶ月が過ぎましたね。新しい学校やクラス、職場、家庭と、桜の咲く季節から始まった新しい環境には、皆さんもう慣れましたか。私も新しい環境の始まりではいつもドキドキしていました。

「出会い」は人生にとってかけがえのないものです。それは、人だけに限ることではありません。生まれてきて自分の家族に出会ったり、好きなことややりたいことを見つけたり、おもしろい本を発見したり、身の回りにはいつも出会いが待っています。

 動物園の動物たちは限られた居住空間で生活しているため、自分から出会いを探しに行くことができません。動物園の役割の一つに「種の保存」ということがあります。野生での数が減少した動物たちを保護していくためには、動物園が破壊されつつある自然環境からの一時避難所としての役割を果たす場ともなります。その中で、一つの動物園だけではなく、日本国内や海外の動物園と協力して、繁殖のために動物を移動しあい、希少な動物たちを増やし守っていこうという取り組みも行っています。この場合、「この個体が良さそうだよ」などと人がペアを考えるわけですが、それはさながら人でも行う「お見合い」の状況に似ていると思います。今回は、そんなドキドキ、時にハラハラした動物たちのお見合いについてのお話です。

 熱帯鳥類館のジャングル展示室を通り抜けると、右側にワライカワセミの展示室があります。大きな口を開けてカーッカッカッカッカ・・・と鳴く声が、 笑い声のように聞こえることからその名がついた鳥です。ある日のこと、いつもは2羽で止まっているはずの枝に、メスの姿が見えません。おかしいな、と思って部屋の中を見まわすと、隅の地面にメスがいました。それから何日もの間、メスが地面の上にいることが多くなりました。どうやらオスに追いやられているようでした。仲が悪いと、ケンカをして傷ついたり精神的にもストレスがかかり良くありません。

 そこで、別の部屋で飼育していたオスに登場してもらい、ペア変えをすることになりました。3月15日、病院にメスを連れてきてオスと隣りの部屋でお見合いを開始しました。お互いにそばに行くわけでもありませんでしたが、近くに見える状況で慣れてもらおうと、そのまま2週間弱様子を観察しました。3月27日、状態も落ち着いてそろそろいいかなと、広めの部屋に2羽を移していよいよ同居開始です。入れた直後は、同じ枝の端と端に止まって緊張しているようでした。が、しばらく観察しているとオスがスス・・・とさりげなく(?)メスのそばに近づいていきました。なんだか良い感じです。ところが、その後餌をあげてみるとオスがメスの分までいつもより余計に食べてしまい、メスは少ししか食べられませんでした。そこで、それから何日かは餌をあげるときにオスを追い払いながらメスも食べられるようにしました。仲良くなって欲しいという願いが届いたのか、しばらくしたある日、こっそり覗きに行くとオスがメスに餌をプレゼントしているではありませんか!仲良しになれたようです。

 そこで、4月10日に2羽を展示室に戻しました。これでひと安心、と病院に戻ったところ、観察していた飼育担当者から「だめみたい」との連絡が。慌てて見に行くと、オスとメスがお互いの嘴を噛み合わせてにらみあいの状況でした。病院では仲が良かったのに、場所が変わったことも影響したようです。このため、オスは一旦病院に収容し、弱い方のメスを展示室に残して古巣の部屋に慣れさせることにしました。その後展示室で改めてお見合いをすることになりました。

 4月19日から、オスをケージに入れて展示室に置き、部屋の中にいるメスと再びお見合いを開始しました。そして、4月26日にオスをケージから出して同居したところ、トラブルもなく晴れてペアで展示ができるようになりました。その後、5月14日に産卵が認められました。かわいい雛が生まれることを期待しています。

 ところで、前回の病院だよりでお話ししたライオンのエンジェル(メス)は、新しく来園したオスとのお見合いも順調に済み、一緒に仲良く暮らしています。元気になって良かったです。私達飼育係が動物達の愛のキューピッドになれればいいな、と願っています。

(野村 愛)

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