でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 155号の3ページへ155号の5ページへ »

155号(2003年09月)4ページ

アムールトラ シマジロウのお散歩

11月3日、雨。この日を持ちましてご好評いただいた「シマジロウのお散歩」は終了しました。アムールトラのシマジロウのこれまでの成長を振り返ってみたいと思います。

 シマジロウは、6月28日午前9時30分に産声をあ げました。今まで、母親のナナは3度の出産がありながらもそのすべてで育児がうまくいかず、子供が死亡していました。主な死亡原因は、子供をくわえる際に力の加減がわからないのか、胸のあたりを強くくわえすぎ、内出血死してしまうというような状態でした。6月28日、ほぼ出産予定日(トラの妊娠期間は約100日)に生まれた子供は1頭、今までの3回では3頭・2頭・2頭といずれも複数の子供が生まれていたのに、その時はその子1頭だけでした。なるべく母親のナナを落ち着かせてあげようと極力遠くから見守っていたのですが、またもやナナは今までと同じように子供をくわえては離し、また子供が鳴くとくわえては離しと、とても授乳する仕草は見られず、このまま母親の元につけておけば今までのように死亡するのは明らかと判断せざるを得ない状況になりました。獣医さんと相談し、もう親から取り上げるしかないとの結論になり、午後1時30分親元から離し、私の元にやってきました。取り上げたときの体重は1・38kg。まだ目も開いておらず、ヘソの緒もついたままの状態でした。でも、足はネコと同じ仲間と言えどさすがにトラの子、とっても大きく、模様も親とそっくりでちゃんとしっぽの輪っかまでしっかり同じシマシマでした。そしてこの男の子に名前を付けました。「シマジロウ、今日からよろしくな。大きくなれよ。」

 さて、こうして人工哺育(飼育係の手によって育 てること)になったシマジロウ。本人、人の苦労を知ってか知らずか相変わらずの子ネコちゃん顔・・・。シマジロウの哺乳は1日5回。朝は6時に始まり、夜は10時でした。夜10時にミルクをやりに動物園に再度出勤するのは結構、いや実はかなりつらい日々でした。今年の夏は以上な冷夏となりましたが、私にとって今年の夏はシマ(シマジロウの普段の呼び名、以下シマとします)にミルクをあげていた、その空間でいっぱいでした。成育途中、生後3ヶ月が経った頃、シマは体調を崩してしまいました。飲んだミルクを吐き戻してグッタリし、このまま息を引き取ってしまうんではないか、そんな日々が何日か続きました。獣医さんが毎日懸命に看病してくれ、良い薬を注射してもらったシマは日に日に元気を取り戻していきました。そして毎日の日課、シマの運動を兼ねて動物病院の裏山の小高い丘をかけっこ。まだ幼くフラフラした足取りのシマは、走る私に置いて行かれないよう必死になってチョコチョコ付いて歩いてきました。

 9月13日、「シマジロウのお散歩」は秋の動物園 まつりの飛び入りイベントのごとく始まりました。毎日午後2時からわずか15分程度ですが正面入り口のわきにスペースを作ってもらい、シマをお客様の前に連れて行き皆さんに楽しんでいっていただこうというものでした。初めの頃、シマは生後2ヶ月半程でまだまだ幼く、お客様の前へ行くにも抱いて行かなければならず、ヨチヨチした足取りでした。顔つきもあどけなく、お客様からは「カワイー」「触らせて」という声が聞かれ、シマをとっても可愛がってくれていました。「シマジロウのお散歩」は新聞やTVでも取り上げていただき、園内にも実施時間の掲示をしたり、更には私自身もシマと一緒に写っている写真を駅の地下道に貼って宣伝したりしました。その結果、シマの人気は日を追うごとにかなりのものになっていきました。2時近くになると園内の人々の流れがシマ登場スポットに流れていくのが目にとってわかるまでになり、週末にはこれがこれが・・・シマをひと目見ようと登場スポットはまるで大道芸会場のような、そんな雰囲気がありました。シマがあっちにフラフラ、こっちにフラフラ、メイン会場に行くまではひと苦労、そんな様子を見ていたお客様からはやっと登場したシマに対し、ヤンヤヤンヤの大歓声、さてこれからがシマと私の見せ所となります。いかにお客様に興味をひいてもらい、その場を演じ切り盛り上げられるか。そんなシマと私との日々が約2ヶ月間続きました。

 11月3日、秋の動物園まつり最終日。いつもなら人だかりになるであろうその日は雨。「シマジロウのお散歩」はひと区切りになりました。もうシマは立派に成長し、体重も約20kg、どこからどう見ても立派なアムールトラの姿になっていました。「かわいい」「触らせて」と初めの頃何度も聞いていた言葉は、シマの成長とたくましさとともにだんだん薄れていきました。

 今、シマと裏山の小高い丘に立つと、これまでのいろいなことが頭をよぎります。あんな時もあったな、こんな事もあったなあと。シマも昔は走るのが全然遅くて、草をかき分けてピョンピョン追いかけてきたっけなあ・・・。たくましく育ったシマを隣りに、感慨にふける自分がそこにいます。
(松永 亨)

« 155号の3ページへ155号の5ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ