でっきぶらし(News Paper)

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36号(1983年12月)3ページ

ドジなゴリラ 〜ゴリラも天井から落ちる 〜

(小野田祐典)
“サルも木から落ちる”ということわざがありますが、当園のゴリラのオス(ゴロン)は、私が見ているだけでも、オリの天井から手をすべらせて3回落ちてしまったことがあります。1回ならともかく3回も落ちるなんて、まったくドジなゴリラと言われても、弁解のしようがありません。
簡単に落ちてしまったと書くと、「あっ、そうか!」と思う程度ですが、実は天井から床までは4メートルもあり、しかも床は全面コンクリートで段になっています。もし、この段の所に落ちて頭でもぶっつければ、ただ事ではすみません。人間だったら、頭をぶっつけなくても、運が良く落ちたとしても、どこか骨折するのがおちです。そこが人間とゴリラの違うところなのか、また運が良かったのか、ゴロンは怪我ひとつした事がありません。
まず最初に落ちたのは、来園まもない昭和54年7月2日でした。午後3時頃、私が入室して掃除をしていると、目の前で“ドスン、ドスン”と2回音がしたと思ったら、ゴロンが落ちていたのです。遊台の下から2段目にまず落ちて、そして床に落ちたのです。
遊台は、らせん階段のように4段になっています。やっと天井から一番上の台にとどくようになって、おもしろがり、よく遊ぶようになっていました。いつもの調子で天井にぶらさがり、うんてい(鉄棒を何本かおきにしてぶらさがり移動することを、子供がうんていと呼んでいる。)しながら、私のところに来るつもりだったのが、少し早く手を離してしまったようです。
私も心配になり、急いで怪我でもしていないか調べていると、しばらく“キョトン”としていましたが、そのうち離れていき、またオリにつかまり登っていってしまいました。けれども、いつもよりは慎重になり、動作も鈍いようでした。
当園の開園10周年記念行事のひとつとして、ゴリラを飼育するようになり、開園記念日の8月1日を前に、このような事故で骨折したり、死亡でもしてしまったら、何とも後味が悪く、またゴリラの名誉の為にも何と説明したら良いものか、こまってしまうところでした。
次に落ちたのは、同年9月17日でした。午前10時25分、この時も私が入室している時でした。今度は、古タイヤをロープで吊るしてありますが、天井でうんていしてきてそのロープにとびうつろうとして、目標をあやまってつかむ事ができずに落ちてしまったようです。ですが今度は、まともに4メートル下に落ちてしまったのです。少しの間まったく動かないので心配しましたが、抱きかかえて起こすと、目もうつろでだいぶショックを受けているようでした。ゴロンの体をさわってみましたが、骨折しているところもないようで、痛がるような事もありませんでした。そのうちに動き出しましたが、だいぶ動きが鈍く走るような事はもちろん、歩くことさえもスローでした。古タイヤのブランコにも1度さわっただけで、乗ろうともしません。
まだこの時には、他の人でも入室できたので、獣医にもみてもらいましたが、スローであっても歩きだしていたので、様子をみる事にしました。
そのショックも1日だけで、翌日には落ちた事を忘れてしまったようで、天井にぶらさがりながら片手でドラミングをしたり、いつもと変わらぬ動きをするようになったので、ホッとしました。
3回目に落ちたのは、昭和55年5月22日でした。朝9時40分に私が遊台の上を掃除して、下におりたら私のすぐ横にゴロンが落ちてきたのです。どうも私を追ってきて急いでいたのか、最初に落ちたように1番上の台の上におりるつもりが、早く手をはなしてしまったようです。この時にはショックも感じなかったのかすぐ起き上り、走って私から離れていってしまったので安心しました。
3回共、私の見ている時でしたが、いつも落ち方が同じでした。それは背中のまんなかから尻が床に当たるように、また両手で頭をかかえるようにして落ちてきました。それが一番安全な?落ち方かもしれません。
私が見ていない時にも、落ちた可能性はありますが、でも幸いその様子はありません。ゴロンも今では、体重が90kgを越え、このような事故があったら、今までのように無事ではすまないことでしょう。まったく、このドジなゴリラには気も休まることがありません。
今日までに落ちた事のあるのは、オスゴリラのゴロンだけで、メスのトトはよくゴロンに追われて鉄オリに登ったり、うんていしながら逃げまわっていますが落ちた事はありません。オスとメスのちがいもこんな面に表われるのかもしれません。
同じ類人猿のオランウータンは慎重派で、かならず片手または片足でどこかをつかまえているし、チンパンジーは身も軽く、器用な為まず落ちる事はありません。ゴリラは、どうも無器用で、そそっかしい性質のようです。

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