でっきぶらし(News Paper)

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36号(1983年12月)2ページ

旧夜行性動物館 (その1)

動物は明かるい日中ばかりに、活動するのでしょうか。ちょっと疑問に思い、動物の習性を少しでも学べば、そうではないことが分かるでしょう。陽のさんさんと照る日中よりも、明け方や夕暮れに、そしてひっそりと静まり返った夜の方が、はるかに活動しています。

人の生活のペースで観察され、近年までもっとも誤解されていた動物に、死肉をあさると言われているハイエナがいます。何のことはありません。真夜中に狩りをし、それをライオンに横取りされて、恨めし気に見ていたハイエナが日中になってやっとその残りにありついたのを人が見て、死肉をあさるいやらしい奴だと言っていた訳です。この他にも夜行性故に誤解されている動物はけっこういるのではないでしょうか。
それに夜活動すると言うことは、日中はたいてい寝ていることになります。動物園ではそれらの動物をそのまま展示すれば、どうなるでしょう。ただでさえ、動物園の動物は安穏とした暮らしに、動こうとはしません。プラス夜行性とくれば、寝ている様子ばかり見せてしまうことになります。
そこでひとつの工夫として、夜行性動物館の発想がうまれました。つまり、その建て物の中だけ昼と夜を逆転させようと言う訳です。お客様が来園して来る頃を夜に、そして閉館時間になれば館内を昼にして、活動している動物を、その雰囲気まで味わってもらいながら見せようと言う試みです。
14年前の当時としては、他園でもまだ2、3の園館にしかなく、それは冒険に近いものでした。照明や換気や暖房等、必要と思われる設備をひと通りそろえ、日本平動物園のひとつの目玉としてスタートしました。

◆ 飼育された主な動物 ◆

まずは、図を御覧下さい。(1)から(9)までそんなに派手な出入りはなく、過去に飼育された主な動物もコミミズク、フクロウ、フクロギツネ(放出は除く)ぐらいのものでした。開園以来や10年以上飼育された動物も少なく、その辺りは熱帯の鳥類と比べ、順応させ易くかつ寿命も長い故ではと思われます。
※閉館直前のしばらくの間、中華人民共和国・西安市より寄贈を受けた、ベンガルヤマネコが飼育された。

◆ 餌 ◆
どの動物が餌付かなくて苦労した。そんな話はとうとう聞くことがありませんでした。私もここを3年間担当しましたが、食べなくて困ったと言うような苦労はなく、量の加減も飲み込めば、残餌が出ることもまずありませんでした。
それでも、いつもガラス越しに見ていただけで、彼等が食事にありついているのを御覧になった方も少なかっただろうと思います。ひと通り、順路に沿って、それぞれのメニューを紹介しましょう。

○キンカジュー
まず朝のメニューは、リンゴ、ミカン、バナナ、煮イモ、パン。これを適当に切って与えました。夜行性きってのせわし者で、特にオスは1日中じっとしていることがなく、多少多く与えても全てムシャムシャ。やせの大喰いの典型でした。
そして夕方には、ヒヨコをオス、メスに各1羽ずつ、1週間に3回ぐらい与えました。驚かないで下さい。れっきとした食肉獣アライグマの仲間で、総合的な栄養やし好面を考えるとこれが一番なのです。

○ムササビ
私が担当する時は、すでに意地悪ばあさんと言う、悪名をつけられておりました。それ程新しい新しいオスを受けつけないガンコ者だったのです。
朝のメニューは、リンゴ(季節果物、カキ、ブドウ等も時折)、パン、生イモ等を少しずつ、ゆで卵の黄味を4分の1、シイないしクリの実を少し、シイ、カシの葉も少し与えました。これ等木の葉は、便通に大事な役割を果たし、必要で欠かせないものでした。

○ワシミミズク
野生ではかなりの野ネズミを捕食し、また、好物と言われています。1〜2度テレビ取材で模型ながらネズミを見せたものの知らんふり。全く興味を示しませんでした。
それもその筈、毎日毎日(1週に1度絶食)夕方に貰う餌は数羽のヒヨコで、何食も飽きもせずに食べて、すっかりその味に馴れきっていたのです。例え生きたネズミを与えたとしても、何処まで興味を持たせ引きつけられたでしょう。

○ハクビシン
静岡を代表する夜行性動物で、保護数も多くいつも動物病院を賑わしています。もっとも、農家にとってはミカンを喰い荒らす憎い害獣です。
ミカンに限らず果物は全般に好物で、当然ここで与えた餌も果物を主体に。基本のメニューはキンカジューとほぼ同様でした。ただリンゴだけは、あまり好きでなかったようで時々残すことがありました。
他に与えた餌は、やはりキンカジュー同様に夕方のヒヨコがありました。これには一際眼を輝かせ、かなり食肉性の強さをうかがわせました。やはりその辺はジャコウネコの仲間。野生でもミカンに限らず、ネズミ等をかなり捕食しているのでしょう。

○インドオオコウモリ
一般にコウモリと言えば、ドラキュラの映画等の為に吸血のイメージがまつわり、気持ち悪いなどど言われる方が、けっこうおられるようです。血吸いなどは例外的存在で、当のコウモリにとっても、こんな迷惑な話はないと思います。コウモリ類は、一般に小型は昆虫食、大型は果実食のようです。そして例外的に、魚や花の蜜、あるいは血吸い(メキシコ北部よりアルゼンチンに棲息)の食性があるコウモリがいます。
と言う訳でここでの朝のメニューは、リンゴ、ミカン、バナナ、煮イモ、パン。それを1cm弱の大きさに切って、彼等が木から木へぶら下がり(逆さま)ながら食べ易いところへ置いてやりました。

○スローロリス
別名ナマケザルと言われる程、動作のゆっくりしたサル。いわゆる原猿と言われる、下等なサルです。その目の玉のぐりぐりした大きさは、夜行性を証明しかつ象窒オています。
朝のメニューは、リンゴ、ミカン、バナナ、煮イモ、パン、卵黄を少しずつ。野菜類もできるだけ与えるようにしていました。ミルウォームも時々しか与えられませんでしたが、これもよく食べました。そして1週に1度、夕方にヒヨコも与えました。

○オオガラゴ
やはりこれも上記同様原猿類。従って朝のメニューは変わらず、1週に1度与えた夕方のヒヨコも同様でした。

○アオバズク・オオコノハズク
体は小さくともれっきとした猛禽。野生ではかなり昆虫類も食べているようですが、ここではヒヨコを与えていました。

○ヨザル
夜行性のサルと言えば原猿類が多いのですが、このヨザルはオマキザル(南米に棲息)の仲間で、真猿類唯一の夜行性と言われています。
と言っても、朝のメニューは彼等と変わりはなく、ちょっと量を多く与えた程度でした。1週に1度、やはり夕方にヒヨコを与えました。

○ヒヨコについて
餌の説明をしていて、ヒヨコを連発。これは旧熱帯鳥類館の餌の説明とは違う、又別の苦労です。後で例え舌足らずでも補足せねば、誤解が誤解をうむのではと考えました。
生き物と生き物のつながりは、どんなに小さな生き物とでも必ず喰う喰われるの関係で結びついています。私たちはその関係を上手に管理することを要求されます。ヒヨコがそれらの目的や対象になるのもその為です。
かわいそう、残酷では、本質を見失ってしまうだけでなく、彼等の健康を維持することさえかなわなくなってしまいます。私たち人も菜食だけでは、決して生きてゆけません。それと同じことなのです。

以下次号に続く
(松下憲行)

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