でっきぶらし(News Paper)

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30号(1982年12月)2ページ

鳥類の繁殖 〜後編〜

鳥類の繁殖、前編はフライングケージの鳥類を主体に紹介してきました。後編はもうひとつの鳥類の主役の場にあった熱帯鳥類館と、キジ類、コンドル、フラミンゴ等の繁殖を紹介します。
鳥類の繁殖を集計していて、ヒナの死亡率の高さ、多さが目につきます。天敵のいない動物園で繁殖しているのだから、大半が育って当然のように思われますが、そううまくゆかないのが現実です。
まず病気。こればかりはいくら動物園でも防ぎようがありません。まして、体力のないヒナがかかれば手のうちようがありません。また、オオヅル等の場合に見られるように、ヒナ同士の闘争で2羽フ化しても1羽が敗れて死ぬのはいわゆる“自然の摂理”として常識です。2羽共に育つほうが例外と言えます。
天敵についても、それに替わるべきものが望まなくても出てきます。その筆頭はカラスです。タマゴが忽然と消えたら、まずカラスの仕業と思って間違いありません。コクチョウを始めとして、幾度さらわれたことでしょう。次にネズミです。撃退しても撃退してもフライングケージに侵入して来ます。これにはバンのヒナがずいぶんやられました。そしてアオダイショウ。ネズミを捕食してくれる有難さはあるものの、やはり注意しなくてはいけない外敵です。カラス同様タマゴを求めて、フライングケージ、キジ舎、育すう舎周辺をうろうろしています。
春になれば、園内をかっ歩するクジャクの親子、4〜5羽いたそのヒナが、1〜2羽に減ってしまうのは常識です。病気も考えられますが、もうひとつ恐ろしいのにネコがいます。動物園及び、その周辺には、野性化したネコがうようよと獲物を求めてうろつき回っているのです。
タマゴをかえし、ヒナを育てるのに、ざっとあげただけでもこれだけの障害があります。死亡率が高くなる訳です。解決しようにもそのひとつひとつは、多くの問題を含み、一朝一夕にいかず、根気のを要するものばかりです。これからも苦労は続くことでしょう。それでは、鳥類の繁殖、後編の部に入りましょう。

◆キジ類◆
キジ類は一括して話しましょう。平凡なクジャク、ホロホロチョウを含めて、現在まで22種類を飼育し、10種類を繁殖に導くことができました。内訳は、インドクジャク、ホロホロチョウ、フサホロホロチョウ、ニホンキジ、ミミキジ、コサンケイ、キンケイ、ギンケイ、アオエリヤケイ、パラワコンクジャクといった具合です。
一般に猛獣を飼育しているといかにも恐ろしそうなイメージから、さぞや苦労が多いではないかと思って貰えます。実際には、施錠の点検さえきちんとしていれば、そんなに恐ろしいものではありません。
飼育係とのトラブルが多いのは、直接関わりを持たざるを得ない草食獣や、このキジ類のような動物です。限られたスペースながらも、それを自分のもの、すなわちなわばりとした時、繁殖の土台が築かれます。そうすると直接掃除や、エサを与えに入る飼育係は、そのなわばりへの侵入者となってしまいます。
当然ここでトラブルが生じます。足をコンコンと突つかれる程度ならまだしも、気性の激しいのになると、けづめを立てて跳び前蹴りでかかってきます。こんな相手に怪我をさせないで、また自分も怪我をしないようにするのは、本当に大変なことです。
私自信も、かつて代番で世話をしていた頃、ハッカンに向って来られて、反射的に出したニワボウキが、カウンターパンチとなり見事に気絶させてしまい、こちらの方が真っ青になったことを、今でもよく覚えています。
こうしたトラブルに悩みながらも、歴代の担当者は、産卵の時期には麻の実を与えたり、育すうの時期にはミルウォームを与えたりして、表面に見えないところで、飼育に工夫しているのです。そして未だに産卵しないものに対しても、今度こその気概を秘めているのです。

◆アカガシラエボシドリ◆
先日取り壊された熱帯鳥類館、ここでのもっとも象駐Iな繁殖に、アカガシラエボシドリがあげられます。この名が示すように、赤い鰍?持ち色彩豊で、さすがに熱帯の鳥と思わせる美しさを持っています。反面、ちょっとしたことで餌を食べなくなる、神経質さも感じさせます。
餌ひとつにもずいぶん気を遣ったようで、果物は細かく切り、特製のすり餌を与えたりして、細心の注意を浮チているのがうかがえました。
開園してからのしばらくは飼育するだけが精一杯の状態が続き、オス、メス共にわずか1〜2年の間に相次いで死なせてしまいました。2度目に購入した個体の飼育が順調になり出した、3年数ヶ月後の昭和50年8月25日、初めての繁殖を見ることができました。
その後の4年の間に5回の営巣、6羽をフ化させ、4羽を育てましたが、残念ながらそのメス親は54年10月29日に皮下をダニに巣喰われて、死亡してしまいました。
尚、このアカガシラエボシドリの繁殖は、日本の動物園でも初めてのことであり、日本動物園水族館協会より、繁殖賞を受賞しています。

◆ウスユキバト◆
新しい熱帯鳥類間ができるのを待って、病院の仮住居で飼育されているのは、ただの1羽だけです。かつて、いくつもの巣台にいっぱいたむろしていたのを思い出すと淋しい気がしないでもありません。
開園当時に購入されたペアは、翌年に死亡してしまいました。しばらく経って、お客様からペアの寄贈を受けました。これがその年に春から、そう間を置かず、ポコポコと産卵して、ヒナを育て始めました。
狭いながらも楽しい我が家という雰囲気で、最高時には12羽を数えた訳ですから、10羽繁殖したことになります。当時の担当者は、「ハトだから、そう苦労したと言うことはなかったなあ。ただ数が増えてくると、どうしてもよく喧嘩したなあ。」と、その頃を、懐かしそうに振り返って話しをしてくれました。
そう派手さのない、どちらかと言うと地味な部類に入るハトですが、次から次ぎへヒナを育て賑やかになっていく様子を思い出すと、夢よもう一度とそんな気持ちを抱きたくなります。

◆キンバト◆
熱帯鳥類館の開放展示室、自由で明るい感じとは裏腹に、雑居飼いの為、とても繁殖までは無理だろうと思われる環境でした。そんな中で、キンバトが産卵し、ヒナを育てあげたのですから正に驚きです。しかも、オスは開園以来の個体で、相当の年齢ではないかと思われる中でのことでしたから、二重の驚きと感動を覚えました。またこの繁殖も、担当者のちょっとした心遣いがきっかけになっています。
キンバトがいくら巣を作っても、他の鳥に荒らされ、壊されてしまうのに業を煮やした担当者は、キンバトの為に下に金網を張ってしっかりとした巣を作ってあげたのです。すると翌日にはもう、ありがとうと言わんばかりに、早速産卵しました。
フ化後順調に育ち、しばらくして巣立ちする頃、開放展示室の為、やたら飛び回って、壁にぶつかって死んだりすることもありましたが、現在まで7羽がフ化、4羽が育てられました。
このメス親は病を患っていて、仮住居の動物病院へ引越しのショックが重なり、今年の10月18日に死亡してしまいました。

◆パラワンコクジャク◆
3年前の4月より、熱帯鳥類間において初めてキジ類が飼育されました。産卵は比較的早く始まったのですが、なかなかフ化に至らず、その期待は空振りに終わっていました。
今年の春4月23日「オーイやっとかえったぞ。写真でも撮るか。」と、担当者はいつものように気楽な調子でした。むしろ周囲の方が熱くなっているように思えました。
ぜひとも成長記録をとの期待も空しく、ヒナは3週間の5月13日、くる病にかかって死亡してしまいました。「残念だなあ。せっかくここまで育ったのに。」という嘆きに、担当者は、「なあに、キジ類は1度産み出すと、どんどん産んでくれるから大丈夫だよ。」と、将来は明るいと語ってくれます。
来年の4月には、新しい熱帯鳥類館が完成します。そこでの繁殖第1号は、パラワンコクジャクだと期待したいものです。

◆コンドル◆
日本平動物園で猛禽類唯一の繁殖が、コンドルです。もっとも猛禽舎がある訳ではなく、つがいで飼育されたのもコンドルとサシバぐらいで、後は1羽ぽっきりか、複数で飼育していても、性別のつかないものばかりでした。
このコンドルにしても、クジャクを飼育するために造られた、そう広くない場所での飼育です。昨年は産卵しただけでも、ずいぶんと感心したものでした。それでも1度産み出すとうまくペースに乗るようで、今年の春にも再び産卵しました。親任せにした1度目は昨年同様に失敗してしまいましたが、大事を取ってフ卵器に入れた2度目は無事にかえすことができました。突然の停電があったり、嘴打ちが始まっても、なかなか殻から抜け出せなかったりして、苦労させられただけに、そのフ化の喜びも格別でした。
現在まで順調に成長、先輩園の横浜市野毛山動物園で育てられたコンドルと比べればだいぶ小粒のようですが、最近では人がふいに近づくと、威嚇するようにまでなっています。
鳥類全般が先細りの中で、来年にも繁殖の期待が持てる数少ないひとつだけに、大事に見守ってゆきたいものです。

◆フラミンゴ◆
入園してまず最初に目に入るのは、色彩あざやかな鳥フラミンゴ。昨年まで犬の侵入が恐ろしくて、毎日毎日夕方になると、フラミンゴショーのように追い立て、狭い部屋にしまっていました。これでは繁殖どころか卵すら産まなくて当然です。
何とか繁殖に導きたいと、犬が入らないように防止柵を設けて、1日中池にいられるようにしたのは、昨年4月のことでした。
それから1年余り経った今年の5月より、何かを思い出したように奮い立ち、先を競うように産卵し始めました。無精卵が多く、ほとんどが空振りの状態の中で、7月10日に産まれた卵だけが辛うじてかえるだけはかえってくれました。それも弱々しく、親に唐ワれてあえなく昇天。
そんな状態を、他園の方が訪れて来られた時に話すと、「なあに、最初からそんなにうまく行きませんよ。今の落ち着いた状態が続けばその内増えますよ。」と慰め励ましてくれます。例えお世辞でも、その言葉に期待を持って来年以降に夢をつなぎたいと思います。

ここに紹介した鳥類の他に、コクチョウ、オオサイチョウを含む数種類は、産卵にまで一応こぎつけました。オウサマペンギンに至っては、フ化寸前、あと一歩のところで、無念の涙を飲みました。
不本意な繁殖として、ゴイサギ対コサギ、カルガモ対マガモの雑種ができてしまったことがあげられます。後者はすぐに死んでしまったのですが、私たちが名付けたコゴイサキの方は、すくすくと育ってしまいました。姿・形はコイサギで、色つやはゴイサギ、このような動物を見ていると、何とも言えぬ変な気分になってきます。遺伝学的にはともかく、動物園は種の維持をすべきで、雑種を作るところではありません。それが限られたスペースの中で、やたら雑居飼いされてしまうと、鳥にも私たちにも、不本意な形ができてしまいます。
今後、このような雑居飼育での繁殖には、雑種ができないように十分注意していかなければなりません。
以上の事がらを唐ワえながら“でっきぶらし”で、これからも、いろいろな動物の繁殖状況を紹介していきたいと思います。
さて、これで日本平動物園の歴史、概要の説明は終わったとほっとしていたら、フッと爬虫類のことが浮かんできました。これを忘れてはいけません。冒頭の言葉に従う為にも、あとひとつの爬虫類の繁殖、飼育状況が最後の主題となりました。
そう言う訳で、次号は“爬虫類”の話しです。どうぞお楽しみに・・・。
(松下憲行)

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